第二百三十話
突然じゃが、領地内で旅行ブームが到来しておるのじゃ。
街道の安全性(最近は賊なんぞ絶滅危惧種じゃぞ。なにせ片っ端から捕らえて鉱山に……)、公共交通機関(乗合馬車やレンタル馬(ロバ、牛)など)の充実、適度な感覚で作られた宿場町or街(街道整備の際にできたものじゃ)、金銭的余裕(言わずもがな)、関の撤去と関税の大幅減額、信頼性のある通信手段の確立(郵便事業の成果じゃな)や新聞による広い世界(地球規模では小さいかの)の情報に触れることにより民衆の知見の広がりなどもあって自分達の住む世界が思った以上に広く、世界にはもっと面白そうなものがいっぱいであることに気づいたようなのじゃ。
まぁつまり全て吾等のせいなわけじゃが……おかげで仕事が増えておるんじゃよ!!
吾の影響下にある領地の南北だけでも文化も言葉(訛り的な意味)も違うのじゃからトラブルが起こらんわけがないじゃろ!
しかも、今は絶賛ベビーブーム中なんじゃよ。つまり……子供連れの家庭がめっちゃ多いんじゃよ!子供なんて酔っぱらいと並ぶトラブルの素じゃぞ!
おかげで憲兵隊の増員を行うことになったのじゃが、問題はそこにもあるのじゃ。
その憲兵隊の練度が拙いんじゃよ。
現場で喧嘩の仲裁で負けたり、賄賂を受け取って勝手に釈放したり、勝手にその場で裁いたりと問題が多数ある。
こんな者達を憲兵隊に入れたくはないのじゃが……もう言わんでもわかっておるじゃろうが人がおらんのじゃ。
異国の民(欧州人)の受け入れも順調ではあるが言語や文化の違いは中華の南北などよりも圧倒的な壁が存在するので臨機応変さが必要な憲兵隊には絶対的に不向きじゃからのぉ。
あまり気が進まんが異国の民の一部を兵として使い、余剰ができた兵に一時的に憲兵隊に編入してもらうかの。秋が過ぎれば冬、雪で往来が阻害されてだいぶ落ち着くじゃろうしな。
ちなみに今は夏後半で税納めの季節なんじゃが、そのついでに旅行するというのが流行っておるんじゃよ。
「まぁ商会だけではなく、税収も増えておるから良いんじゃがな」
ちゃんと税収を増やす試みもせねばならんからのぉ。
財源がほとんど商会と吾や魯粛の税収というのは笑えん冗談じゃ。
「何にしても人材不足か……ふむ……よし、少し動いてみるかの」
人材不足、いや、正確には労働力不足を解決、というよりは改善?する方法を思いついた。
もっとも思いついたといっても大したことではないがな。
簡単に言うと——
「今より効率化……ですか」
「うむ、皆が思っている以上に無駄が多いと思うんじゃよ。例えばここじゃな」
「ここ……宮殿ですか」
「そうじゃ。元々屑が見栄を張って作っただけあって通路が無駄に長く、入り組んでおって仕事の効率が悪すぎるのじゃ。それに装飾も細かく、掃除の手間も多すぎる」
「確かに」
「まぁ装飾に関しては仕方ない部分もあるが……大量の書類を運ぶのに苦労するじゃろ?」
「ええ、本当に苦労しますね」
……まぁそんなことを言っても魯粛は百キロ程度なら普通に持ち上げるから基準にはできんがの。
「他にももっと耐久性に優れた紙を開発して竹簡や木簡を減らすなどじゃな」
「なるほど、私でなくても持ち運びが楽になりますね」
あ、本人も普通じゃないと自覚しておったんじゃな。