第二百三十六話
「皆の衆、準備は良いか……よし、出発じゃ〜」
「「「おおー!」」」
「「「わんわん!」」」
うむ、皆の声にはいつも以上に力があるのぉ。
それもそのはず、今日吾等……七乃、孫権、紀霊、魯粛は当然として、護衛に関羽と周泰、そしてなんとなく声を掛けたらマジで参加してきた恋と音々、そして恋の家族達(動物達)と揃って休暇を……しかも温泉旅行に行くところなのじゃ!!
随分と仕事に余裕ができたのでこのあたりで慰安旅行でも、と発案したところ、ものの数秒で採決され、ちなみに上層部のほとんどが留守になるが、帝を旗頭に盧植さん、朱儁ばあちゃんを補佐に付け、司馬八達が脇を固め、商会の方は魯粛の片腕である厳畯が代理に、紀霊や関羽の代わりに軍は皇甫嵩爺ちゃんと楽進、文聘を補佐に付け、治安維持に馬超に任せてきたのじゃ
……改めてメンツをみると、なぜブラック企業化しておるのか不思議な顔ぶれじゃな……まぁ全ては吾の黄金律のせいなのじゃが。(決して吾が無計画に事業を拡大させたせいではないぞ?)
一応董卓や賈駆、張遼にも声を掛けたんじゃが……その返事は「寝言は寝て言え!今こっちはそれどころじゃない!!むしろ人を寄越してくださいお願いします」という内容が開発もされておらんオブラートに包まれて書かれておった。
確かに多少の余裕ができたが他所に派遣できるほどの余裕があるわけではないぞ。またリアルで寿命を縮めるような労働は御免じゃ。
……ん?そのような状態で恋や音々がここにおって良いのか?
「そういえば恋、もしやとは思うが黙ってここに来たわけではないじゃろうな?」
「大丈夫……ねねに頼んだ」
「……音々?」
「安心するのです!」
ふむ、まぁ音々なら大丈夫——
「ばっちり置き手紙を置いてきたのですぞー!」
では全然なかったのじゃ?!
まさかの置き手紙?!では今頃董卓のところは大混乱じゃろうな。こんな成りでも音々は優秀な文官……らしいからの。正直かなり疑っておるが。
「むむむ、音々の有能さを疑ってますね?!そもそもあの修羅場で恋殿が離れられるわけがないのです!ですが、恋殿の希望を叶えるのが音々の仕事!ですからそれを実現したまでなのです!」
うん、まぁ、確かに目的達成という意味では間違っておらん。間違ってはおらんが社会人としてはものすごく間違っておるぞ。
いや、よく考えればこの二人だけならばともかく、恋の家族達も同行しておるのじゃからさすがに気づいておるはずじゃ。さすがに気づかぬほど無能ではあるまい。つまり恋や音々に休暇を与えたということじゃな。(勝手に断定)
つまり、吾は悪くない!!
「美羽」
「なんじゃ?」
「お腹空いた」
「まだ洛陽を出て間もないんじゃが?!」
「恋殿の要望に答えるのが我等の勤めですぞ!」
いやいや、そんな業務内容知らんぞ?!
まぁ食べ物がないわけではないのじゃがな。
「とりあえずこれでも食べておってくれ。すぐに用意を——「ヒョイ(蜂蜜の入った壺を取る)、スンスン(匂いを嗅ぐ)、パク(咥える)」——にゃー?!まさかの初対面の時の再現じゃと?!」
「ちょ、呂布?!なんて羨まし——じゃなくて、お嬢様になんてことをしているの?!」
孫権よ。おぬし、染まりすぎじゃと思うんじゃ。本音がダダ漏れなのはともかくその本音がのぉ。いや、嬉しくは思うんじゃぞ?しかし、なんか、こう……おぬしは七乃達とは違うじゃろ?そうじゃろ?そうじゃと言ってたも。
というか、恋も恋でなぜわざわざ蜂蜜を受け取っておいて吾の手を——ひゃぁ?!ハムハムするでない?!チューチュー吸うでない!!本当に初めて会った時の再現——ハッ?!殺気?!
「ハッハッハッハッ」
セキトさんや、そのつぶらな瞳はなぜ吾に向けておるんじゃ?いや、別に親愛か何かならいいんじゃよ?でも……獲物を狙うかのような瞳は勘弁してくれんか?
「バウッ!」
今、明らかに、だが断る!と言ったじゃろ?