第二百三十七話
現代でも目的地に向かう道中も旅行には違いないが車などの便利な交通手段によって楽しみが半分になったというのは間違いないの。
吾等の移動手段は吾は小次郎、他は馬や馬車、恋の家族達は自走しておる……そういえば忘れておったが音々の愛犬張張もその中に含まれておった。存在自体を忘れておったから恋の家族の中に混ぜてしもうたのじゃ。……まぁ別に問題があるわけではないが、気分的な問題かの。
全員が騎乗しておるが駆け足というわけではなく散策する程度の移動速度じゃ。
ちなみに今進んでおる道は公共事業で整えられた美しい道路じゃ。
詳しく言うと馬車に負担が掛からないように作られた石畳の道路、その脇に作られた馬に負担が掛からないように作られた土を固めた道路、そして少し離れた場所に歩行者用道路がある。
これらは洛陽の主要道路、洛陽から東は虎牢関、汜水関を抜けて陳留を通って東海、広陵へ、南は南陽の宛を通って荊州の襄陽で一旦途切れ、河を渡って樊城を更に南に抜けて江陵まで西は長安を経由して安定、武威と北は……?敷いておるはずじゃが記憶にない?……豫州は袁家本拠地が近いこともあって洛陽と南陽の次ぐらいに念入り網羅しておるし揚州は広陵からも江陵からも豫州からも敷いておる。
とは言っても吾等が今通っておる洛陽と昔から吾が統治しておった南陽の周りは別格じゃがの。
何が別格かというと——
「美味いよ美味いよ!うちの焼き鳥は天下一品だよ!」
「いらっしゃい!いらっしゃい!蜂蜜はいらんかね!」
「洛陽名物!袁家印の蜂蜜饅頭はいかが!!」
「朝採れたての卵がこの値段!」
「酒といえば蜂蜜酒!上品な甘さに酔っておくれ!」
……蜂蜜関連の商品が多いのは良いとして、このような店や出店が定期的に道路に併設しておるのじゃよ。
これは洛陽や南陽へ訪れる者の多さを狙った結果なのじゃ。ちなみに、南陽(もしくは洛陽)に向かい辿り着く前に旅費尽きるという小話ができるほどの充実具合じゃぞ。
足を洗うためのお湯を売っておったり、その隣で綺麗になった足の客を狙って履物を修理、洗濯、もちろん代わりを売っておったり、更にその隣では履物に合わせるかのように服を、その隣では装飾品、そして店が途切れるあたりでは荷物持ちなどが張っておる。
後、変わった店で言うと現代でも結構前に話題になっておった殴られ屋があったりするぞ。いつの時代も商人というのは逞しいのぉ。
「……ところで恋、買い食いも良いが止まらずに買える物だけに絞るんじゃぞ」
「ん、わかってる」
もきゅもきゅと頬張る恋を見ると和むのぉ。
ちなみに両手には既に食べ物で埋め尽くされ、傍に控えておる五人の使用人が恋が欲しがる食べ物を買いに走ったり、代わりに持ったり、ゴミを処理したりしておる。
まぁこれほどの人数を使ってはおらんが、吾や七乃達も似たような状態なのじゃがな。吾等の希少な休暇は金よりも希少であるからこのようなところで足を止めるわけにはいかんのじゃよ。
余談ではあるが、今回掛かる費用の全てが吾の自腹じゃ。ケチる意味なぞないからの。
……ただし、このあたりの店は商会一割、裏商会二割であるため、いくらかは吾の手元に戻ってくるのじゃがな。
「それにしても……せっかくの買い食いであるのに毒味を通さねばならぬのが面倒じゃのぉ」
「それは仕方ないですよー。お嬢様に万が一があったら大変なことになっちゃいますから」
「まぁわかってはおるんじゃがな」
ちなみに日頃は毒味などする者はおらんかったりする。
そもそも料理を作る者や運ぶ者は頭髪は剃られ、五回の身体チェック、作業中は常時監視されておるからの。
まぁ忙しい時は軍の携帯食と蜂蜜ばかり食べておるからあまり必要がないというのもあるがな。