第二百四十話
「ふはぁ……久しぶりにゆっくり過ごす時間が手に入ったのぉ〜」
宮殿はやはり落ち着かん。
好き勝手しておるように皆思っておるじゃろうが、所詮あれは他人の家であって吾の家ではない。あくまで仕事場に過ぎんということじゃ。
そういう意味では吾はホームレスというやつかもしれんな……なんとも贅沢なホームレスではあるがの。
「むぅ……この布団……なかなかよい固さじゃ……固過ぎず、柔らか過ぎず……これは宮殿に置いてある物より良いかもしれんな。これに代えさせるか」
うーむ、寝る以外の時に横になるのはいつ以来じゃろ?
皆の膝枕など、イベント的なものを除くと…………………おかしいの、記憶に無いぞ?少し待て………………………だめじゃ、全然記憶にないのじゃ。
「もしや吾、かなり生き急いでおらんか?」
まぁこの時代の人間の寿命なんて現代人のそれとは比べられない……と思ったんじゃが華陀のような気による治療があるせいで実は現代レベルの寿命になっておるような?というかそもそも治療でなくても気の存在はアンチエイジング効果があるようじゃしな。(黄蓋、黄忠、厳顔参照)
む、そう考えると吾も気の操作ぐらいは学んでおくべきじゃろうか、せっかくこのような可愛い容姿(自画自賛)であるのだから維持する努力はすべきじゃろう。
「……老化現象が欠片も見られないがの」
この身体は不思議なことに、紫外線を浴びてもシミ一つ増えんし、体重も変化こそするがそれは逸脱した生活をしている間のみで、どうも一定期間普通(普通とは言っていない)の生活をしておれば元の水準に戻るようなのじゃ。
これが若さゆえなのか、それとも今更発覚した転生者特典なのか……特典にしては地味過ぎるのじゃ。
「さて、そろそろ本命の大浴場に向かうとするかの」
ここの大浴場は十以上の湯船が存在する……はずじゃ。実際に見たことはないから確かではないがの。
予定としては温泉、温泉(高温)、温泉(温め)、温泉(常温)、温泉(冷)、ゆず湯、薄荷湯、蜜柑湯、薬湯が五種類などなどが用意されておる。
あ、ちなみに湯船と言ってよいか微妙じゃが打たせ湯が二種類あるぞ。一つは現代でも銭湯にもあるような……あ、そういえば打たせ湯は衛生上の問題でなくなった?んじゃったか?……まぁとりあえず、ホースで水を落とすより少し多いぐらいのものと本物の滝レベルのものもあるぞ!
ただ、前者は温泉じゃが、さすがに後者は温泉でやるのは難しいので水じゃから正確に言えば打たせ水じゃな。別の言い方をすると打たせ水にもできる景観を兼ねた滝とも言う。
あと変わったところではウォータースライダーもあるぞ。こちらは緊急時の移動用も兼ねておるから実用品じゃがの。
山に作ったので階段が多いのでせめて下りぐらいは楽をせねばやってられんじゃろ?
ちなみに蜂蜜湯はないぞ?別に作っても良かったのじゃが掃除が大変そうじゃがからのぉ。現代と違って風呂用の洗剤などないから衛生上に問題があるんじゃよ。
それにぶっちゃけ蜂蜜の匂いに釣られて虫がわんさか集まりそうじゃからの……湯船いっぱいに浮かぶ虫の死骸なんぞ見たくないし、想像もしたくないわ!
「お風呂〜お風呂お風呂〜♪」
吾専用の更衣室に入り、脱衣カゴを手に取り、台の上に置く。
すっっっごい今更じゃが、吾は、いつの間にか女子の服を着ることにも脱ぐことにも抵抗がなくなったのぉ。
もぞもぞと服を脱ぐ……これがゲームなら吾のサービスショットであるが……男の娘の需要なんて…………ああ、結構あったのぉ。こんな可愛い子が女の子のはずがない、という名(謎)台詞があるぐらいじゃからの。
脱いだ服を脱衣カゴに放り込み……蜂蜜壺は……持っていくか、風呂に入りながら一杯というのも乙なもんじゃろ。
さあ、ゆかん!桃源郷!!
「あ、お嬢様。遅いですよー」(七乃)
「ゴホッ……お嬢様の肌は私には刺激が……強い、グハァッ」(孫権)
「あらあらまあまあ」(魯粛)
「お嬢様……御髪を束ねませんか?」(紀霊)
「孫権、鼻なんぞ押さえてどうしたのだ?」(関羽)
「小次郎様、お湯加減はいかがですか」(周泰)