第二百四十二話
「お嬢様、お背中を流しましょう」
「む、紀霊か、なら頼——」
「それなら私もお背中をお流しします!紀霊様にご教授いただいた技術、ここでお見せいたします!」
「周泰、おぬしも——」
「では私は前を念入りに——フゴフゴ」
おう、なんとなくそうなるかと思っておったが吾、洗われるんじゃな。
いつもは吾一人で風呂に入っておるから背中を流されるのはちょっと嬉しい……いやこんな可愛い女子達と共に入るどころか背中を流してもらえるなど夢のようじゃ。
……うん、嬉しいのじゃが……孫権、おぬしはなぜ七乃サイドに堕ちてしまったのじゃ?いや、まぁ、うん、全裸待機しておったあたりで悟っておるんじゃが……さすがにボディタッチ、しかも前を念入りというのは問題があると思うんじゃ?
まぁ男の娘の身体なんぞ安いものなんじゃが、それを許すと七乃や紀霊、魯粛はともかく、何も知らぬ周泰や関羽にまで影響を及ぼす可能性があるのじゃ。
性別を知らずに願い出てこられる断るのに苦労するんじゃぞ。いい加減、裸の付き合いができぬ吾はどこか壁がある気がするしのぉ。仕方ないことなんじゃが……。
「なんじゃ、それはまな板な吾に当てつけかや?では吾は代わりにおぬしのおっきな尻を洗ってやろう」
「わ、私はそんなつもりは……しかしお嬢様に洗っていただけるなら!!」
いや、さすがに冗談じゃぞ?背中ならともかく尻はハードルが高すぎるのじゃ。それをしてしまうと男の娘が男の子になってしまう可能性大じゃぞ。
「そういうことなら私はその無駄にでっかいおっぱいを洗ってあげます!それはもう念入りに!小さくなるまでアラウノヲヤメナイデス」
「そんなつもりは……すいません」
「謝らないでください!」
こういうことで謝られると惨めに感じるんじゃよなぁ。
ただ……あー、うん、周りに巨乳しかおらんからと涙目で吾に救いと同志を求めんでくれるか?残念ながら吾は男の娘、性別を超越した存在なんじゃよ……本当に申し訳ないが。
「袁術様!大変申し訳ありませんが私はこの不届き者——いつもお世話になっている孫権さんの胸を絞って——背中を洗って差し上げようと思います!」
色々と思いが隠せておらんぞ。主に嫉妬が。
「ですから関羽さん!私の代わりに袁術様のお背中をお願いいたします」
周泰、おぬし……置き土産になんちゅー爆弾を置いていくんじゃ?!
「私か?周泰のように手法を知っているわけではないが……しかし日頃頑張っておられる袁術様にご奉仕するのも一興ですか」
おや?思ったより関羽さんが乗り気なようじゃぞ。嬉々としてスポンジを握っておるぞ?!
まぁ確かに関羽とは日頃からあまりコミュニケーションが取れておらんかのぉ。
いや、違うか、コミュニケーションは取っておるんじゃがなんというか……そう、関羽は第二のオカンなんじゃよ。
吾や七乃が暴走して魯粛が加速させたりベクトルを変えたりして紀霊は微笑んで見守る。少し前までは孫権がブレーキ役になってくれておったんじゃが最近は七乃や魯粛などよりも悪い方向に暴走して加速させるんじゃよなぁ。主に殺意の波動な意味で……これが華琳ちゃんなら殺意の覇道なんじゃがなぁ。華琳ちゃんが豪鬼……うん、似合いそうじゃな。
話が逸れたの。つまり、関羽は今や吾等の外付け(所属が軍なのでたまにおらんから)良心回路なのじゃ。
時には叱り、時には諭し、時には力で捻じ伏せ、時には逃走し、時には胃薬を飲み、時には鬼ごっこに付き合ってくれるオカンなんじゃ……ん?なんか途中で妙なものが混ざったような気がするが……まぁ気のせいじゃろ。
ちなみに自重する気は全く無い(キリッ)
「うむ、周泰よ。存分に孫権を洗ってやるのじゃ」
「え、ちょ、お嬢——」
「了解であります!」
「そんな私は——あ、どこを触って、やめ、ンッ!」
目に毒なので目は逸らしておくのじゃ。孫権も嫁入り前の女子じゃからの。あられもない姿を見られるのは……見られる……のは…………さっき、堂々と全裸じゃったな。しかも自分の意志で見せておったな。
まぁ孫策も随分と解放的な感性(控えめ表現)の持ち主であったから何かの拍子に覚醒しても不思議ではない……が、できればせめてもう少し控えめに覚醒してくれても良かったぞ。
「ではお嬢様、私達も」
「うむ、紀霊、関羽、頼むぞ」
「な、慣れていないのでご教授お願いいたします」
関羽……なんというか、すっごい堅いぞ。
せっかくの旅行で仕事感バリバリで堅苦しいのじゃ。
「じゃあ背中を頼むのじゃ」
「お任せください」
あ、ちなみに今使っておるスポンジは海に転がっておる何かを加工してどうにかするとできるらしい。(モクヨクカイメンのこと)
発言から察することができるじゃろうが作り方は知らんが、なかなかいい使い心地で吾の身の回りの水場ではこれが常備されておる。
まだ生産量は少ないので上流階級にのみ販売しておるんじゃが、そのうち庶民の方にも出回る……じゃろうか?海産物であるからあまり取りすぎると悪影響を与える可能性が……ああ、それ以前に生産量を増やそうにも労働者不足であったな。