第二十三話
さすがに当主を失って宴は粛々と行われることに……なっておらん。
めっちゃ騒がしい。
これ、孫策、剣を抜くでない!え?剣の舞?おぬしがやると4回攻撃の方になりそうじゃし、血生臭そうじゃから遠慮するのじゃ。と言うかそういうのは専門家がおるからの。
……周瑜、おぬしさっきから本ばかり読み過ぎじゃないかや?……魯粛から借りたなら後にせよ。普通なら無礼な行いじゃぞ。
……黄蓋、おぬしはもう少し酒を自重せよ。太るぞ——ぬわぁ?!何処から弓を出したのじゃ?!
「……こやつら、客としての自覚なさすぎるじゃろ」
「今まで緊張の連続で大変だったからでしょう。先の見えない現実というのはそれだけで疲労が溜まりますから」
魯粛が言いたいこともわかるが……吾主催の宴ではなく、身内同士の時にでもやればいいものを……まぁ他人行儀過ぎるよりは良いか?
「孫家の皆さんは崖っぷちの生活をしていたようですからね。賊に身を落とさなかっただけでも凄いことです」
「それほどか」
「四日に一度の食事で我慢していた方々ですからね」
……思った以上に壮絶じゃった。
うむ、無駄にうるさいこの騒がしさも事実を知った今だと歓喜の声にしか聞こえんな。
そうじゃな。十日ほど休暇でも——
「袁術様、甘やかしては駄目ですよ」
「ギクッ」
「全く、そういうお優しいところは美徳ですが、その優しさは人を腐らせるものであるとも理解ください」
「むぅ」
そう言われては仕方ないのぉ。
「ならば三食に蜂蜜一樽をつけるので妥協するかの」
「それがよろしいかと」
「その妥協は間違ってるのですよー」
む、程立から異議申し立てがあったぞ。なぜじゃ——おお、そうか!
「おぬしにも——「お断りしますですよー」——最後まで言っておらんのじゃが?!」
「さすがに事あるごとに蜂蜜を報酬とされてればわかりますよー」
くっ、蜂蜜の魅力がわからぬ異端者め!
「そういえば魯粛、劉表との話し合いはどうなったのじゃ」
「一言で表すと言い掛かりだから何もする気なし、と言ったところでしょうか」
「愚物風情が何様のつもりじゃ。大人しく慰謝料を渡せば良い物を……いっそ帝と宦官に劉表叛意有りとでもでっち上げて討伐軍でも組むか?」
「……袁術様は見た目に反して過激ですねー」
「孫堅の仇を討てるなら問題ないのじゃ」
それに孫策を手中に収めた以上、大義(偽)も手に入れたも同然じゃ。正義は吾に有り!
後は荊州の日和見主義な豪族共と南荊州で好き勝手しておる賊共を利用すれば……うむ、案外本当に狩れるかもしれぬ。
「それとまだ確定情報ではないのですが……」
珍しく魯粛が言葉を濁した。
程立も不思議そうに見ておるぞ。
基本的にあらあらまあまあな人じゃからな。誤魔化す時はテキトーに笑って流し、言いづらいことでもサラッと言う、そんな彼女であるから今吾と程立は混乱しておるのじゃ。
「その、劉表さんがですね……孫策さんを狙っているようなんです」
「なんとー」
程立は驚いておるが、吾的にはさもあらんという感じじゃな。
劉表のくそじじぃの好みは勝ち気で自由奔放、つまり縛られない者を好むと聞く。そしてそれを縛るのが堪らんそうじゃ。華琳ちゃんとは違った意味でのドSじゃな。
「最近は客将として訪れていた者にまで手を出そうとしたようです。張飛という子供と趙雲という巷では常山の昇り龍とも謳われる方まで……」
色々な意味で凄いな、劉表は……まさか主要キャラに手を出そうとするとはの
…………って張飛がおったあぁ?!
関羽を引き入れて行方知れずであった張飛じゃが、まさかこんなことで行方を知れるとは思わなかったぞ。
「その御二人確認できたのは逃げ出すことに成功したのですが、その際に大立ち回りをなさったからです。つまり今まで噂にならなかったということは被害者は数多く存在するということになるでしょう」
結局行方知れずのままじゃがまだ生存しておることに一安心じゃ。戦争で死ぬ分には良いが関係ないところで死なれると少し責任を感じるからのぉ。
……で、劉表のくそじじぃが外道であることが言い淀んだ理由か?それにしては内容は割りと予想の範疇なんじゃが。
「それが……どうやら劉表さんは袁術様も狙っているようで」
「……………フォッ?!」
吾?!
「そういえば袁術様は自由奔放な方ですから好みにあいますねー」
「嬉しくないのじゃ」
「それに小憎たらしいところがまたたまらないんでしょう」
「嬉しくないのじゃ……というかそれは既に悪口ではないか魯粛」
いや、にこにこ笑って誤魔化そうとしても吾は誤魔化されんぞ……誤魔化されん……誤魔化され……もういいのじゃ。
しかし、あやつが吾を……ちょっと「殺して来ますね」——どこから聞いていたかは知らんが七乃が吾の気持ちを代弁してくれたのじゃ。
まぁ、実際は吾は男の娘であるし、問題になるはずが——
「ちなみに劉表さんは両刀使いですよ」
程立がおることを気にして小声で不吉なことを伝えてくる魯粛。
「よし、七乃。劉表征伐といこうではないか!」
「わっかりましたー。早速準備を——「まあまあ、落ち着いて」——ぐへっ、襟掴まないでください!」
「なぜ止める魯粛、ここは吾の凌辱エンドを潰すために動くべきじゃろ!」
劉表狩り待ったなしの状態じゃろ。
すぐにでも投石器千、組み立て式井闌五百、弩一万投入できるはずじゃぞ!
「えんどというものが何かわかりませんがあまり軽率な行動を取るべきではないと思いますよ。ひょっとすると劉表さんの罠という可能性もありますし」
むっ、そう言われると辛いところじゃな。
罠の可能性はあるか……ぶち破ることはできるとは思うが、こういう勝ち負けは時の運じゃからなぁ。万全で挑むべきか。
漢王朝とっとと滅んでくれんかのぉ……まぁ黄巾の乱が先なんじゃが。
こちらが負ける可能性も微レ存じゃがそこは深く考えぬ。
「袁術様は見た目と違って意外と過激ですねー」
……魯粛が言ったことが聞こえてない上に吾が男の娘であることを知らんから仕方ないが、凄く理不尽じゃ。
過激ではない、正当防衛なのじゃ!
「むぅ、結局今まで通りやっていくしか無いかのぉ。早々に始末したいところじゃが……まぁそんなこと言っておったら華琳ちゃ……曹操ちゃんも始末せねばならんしのぉ」
華琳ちゃんの場合は吾が狙われておるわけではないが紀霊が既に狙われておるし関羽も狙われることは確定じゃろうし。
「……郭嘉ちゃんが聞くと激怒しそうですねー。早く酔いつぶれて良かったです」(袁術様が曹操様に勝てるか疑問ですけどー)
「なぜか黄蓋に絡まれておったな」
黄蓋と郭嘉などという組み合わせは特に思い当たるフシはないが……強いて言えば郭嘉は赤壁の戦いの頃には死んでおって参加してないぐらいじゃか。
ひょっとすると鼻血芸が面白かったのかもしれんがな。
孫策や周瑜の露出度の多さに妄想爆走させた郭嘉が初っ端から吹かしたからのぉ。孫家の者達皆驚いておったな。
「こうして二人で話すのは初めてじゃの」
「ええ、これからよろしく頼むわね」
雇われる立場じゃのに偉そうじゃのぉ……まぁ、孫堅も金を借りておる立場であったのに態度がデカかったから親の影響と考えれば至極当然か。
「うむ、孫堅の遺言でもそう頼まれておるからな。大船に乗ったつもりでいるといい」
「えっ」
「えっ」
なんで孫策が知らんのじゃ?遺言なんじゃろ?
「黄蓋からそう聞いておるんじゃが?」
「でもそんなこと一言も……」
まさか遺言が嘘だったりセんじゃろうな。
……いや、逆に孫策が知らんということはただ単に黄蓋が伝え忘れただけじゃな。吾を騙すのに孫策に伝え忘れるなんぞありえんじゃろ。
もしそんなことするなら考えたのは黄蓋ではなく周瑜じゃろうし、こんな粗があるやり方はせん。
黄蓋の慌てん坊め。
「というわけでおぬしには孫家家臣をまとめてもらう予定ではあるが……そういえば周瑜はおぬしの家臣のままで客将ではないということじゃがそれでよいのか?」
「もちろん私の家臣よ」
「……おぬしの一存で決めておるんじゃないよな?客将待遇でないなら給金は孫策の分だけじゃぞ?」
「これは冥琳……周瑜の意志よ」
早く独立したいなら周瑜も黄蓋も客将になる方が手っ取り早く資金が集まる。なのに孫策の家臣扱いであるらしい。
正直、孫策の家臣じゃと立場が客将以下じゃから周瑜に仕事が回せん。つまりほとんど使いものにならないのじゃ。
宝の持ち腐れにもほどがある。
だからといって周瑜がおるからと孫策に無茶な仕事を振るのも、色々と問題があるからのぉ。
ちなみに呉景と孫賁は客将ではなく、仕官してきた。
理由が客将だとまた清掃作業をさせられるから、という内容だったのが笑えるがの。
孫策が独立する時に十中八九引き抜かれる人材じゃから扱いに困るが……雑用係として頑張ってもらおう予定じゃ。
そうじゃ、孫策のやれることは殺ること以外ないからしばらくは清掃作業に従事させるのもいいかもしれん。恨まれそうじゃがな。
「ちなみに周瑜が客将待遇になる場合払われる給金はこの程度じゃ」
「……」
口をあんぐりしておる。どうやら金額に絶句しておるようじゃ。
最近ではお馴染みのの光景じゃな。忠誠は金で買えるとは思わんが、人間は何かの形で応えられたいものじゃからな。
しかも自身が弱っておる時の誘惑というのはなかなか抗いがたいものがある。
魯粛が話した雇用契約の時より二倍ほどの金額を提示しておるのじゃが……
「それでも冥琳——周瑜は私の家臣よ」
跳ね除けられるか、やはり小覇王様は格が違ったらしいのぉ。
ハァ、扱いが難しい者達が増えたのじゃ。
「それは残念じゃ。さて、ここから本題なんじゃがおぬしの他に孫堅の娘が二人ほどおったはずじゃがそやつらの姿が見えなかったのはなぜじゃ?」
「……」
……返事に困っておるようじゃな。
さすがに自分の母親が遺言を残したという人物相手でも簡単に話すことは出来んか、まぁ信用できるかどうか値踏みが終わっていない今の段階では難しいやもしれん。
「まぁよい。吾はただ孫堅の忘れ形見を心配しただけのこと、孫堅自身もそうであったように孫家は家を残すことを趣を置いておることは知っておるからの。忘れてたもれ」
「ありがとうございます」
本当は孫権達がどこにおるか把握しておる。
劉表のくそじじぃがまだ影で動いていると魯粛から聞いておるから南陽に集めておきたかったんじゃがな。
まだ幼い孫尚香はともかく孫権は引き入れれないかのぉ。主に孫策のブレーキとして調きょ——育てたい。
いや、なんじゃったら華琳ちゃんのライバルの王として育てるのもありかもしれんな。
吾は別に天下統一とか帝の座とか興味ないしのぉ。
孫権は吾が育てた!とか言ってみたいぞ。
「孫堅の次女は年齢的にちと早いかもしれんが吾の下へ仕官させる気はないか?」
「いえ、まだまだ未熟な者を仕官させるなんてとても——」
「ちなみに給金は周瑜と同じ額じゃぞ」
「……ちょっと、なんで私の給金がこの程度で冥琳と蓮華がこんなとんでもない額なのよ!!」
この程度と言っても結構な額じゃと思うんじゃがの。
まぁ、査定基準は性格と文官優遇じゃから孫策が低くなって当然じゃな。
関羽と甘寧は性格が真面目で原作と違って忠誠ではなく、金で雇われているだけとはいえ誠実であるため評価が高く、三羽烏は李典はその能力で、楽進は関羽達と同じで生真面目、唯一于禁だけは性格と能力が他と比べて低いので評価も低いが三羽烏というだけあって三人揃っての雇用でないと雇えないからこれはノーカウント。
程立や郭嘉は文官というだけで優遇決定じゃ。
それに……
「なんとなくじゃな。おぬし、仕事で手抜きそうじゃし」
「まだ雇われて仕事してないのにその言い草はないんじゃないの!!」
む、言われてみればそうじゃな。
原作知識に頼りすぎておるか、まずはちゃんと評価せねばならんな。
まぁすぐにボロを出すじゃろうがな。
デスクワークする孫策なんて想像がつかんしの。
「それは悪かったの、これから頑張って吾の評価を覆らせてたも。それで孫権の件はどうじゃ?」
「……すぐには決めれないわ。冥琳と相談させて」
「了解したのじゃ。それとあまり真名を人前で呼ぶでないぞ?孫堅ほどにしろとは言わぬが公私使い分けた方が重みがあって良いと思うぞ」
「前向きに考えておくわ」
まぁ、最初は普通に真名呼びではなかったからちょっと興奮して忘れただけじゃろうがな。
これから孫家が本格的に割れのもとで働くのか、どうなるのやら。
書いていて自分でもイマイチ何を書きたいのかわからない話でした。
本当は載せるに値しないようなものを載せてしまったような……