忙しくて短くなりました。
申し訳ありません。
第二十四話
後日、孫権は仕官させると孫策から返事が来た。
よしよし、孫策をディスるようで申し訳ないが孫権は将来揚州を任せられるように教育するかの。
孫策は血の気と覇気が多過ぎるため首輪をして檻に閉じ込めて牙を抜く……のは可哀想なので定期的に牙を丸め、マタタビ(酒)をくれてやるぞ。
でも周瑜はやはり孫策の家臣のままじゃがな。親友を手放させるのはなかなか難しいのぉ。
ナチュラル型ブラック企業(社員も社長も働き詰め)の我が社に就職してくれたなら寿命が早く——ゲフンゲフン。
もしや、それがわかっておるから避けたのかもしれんな。
吾の死亡フラグ折りとホワイト企業化と一石二鳥なんじゃが……それほど甘くはないか。
「お嬢様、魯粛さんから手紙が届きましたよ。燃やしていいですか?」
「駄目に決まっておろう。これ、蝋燭に近づけるでない!」
ちなみに今は深夜じゃ。
本来なら日が沈めば明かり代が勿体無く、ただただ眠るのみなのじゃが吾達はブラック戦士、休める時間は限られておるんじゃ。
まさか蜂蜜を手に入れることによって蝋燭が安価に手に入るとは思いもせんかった。
ぶっちゃけ蜂蜜(厳密には蜜蝋)で蝋燭ができるなんぞ知らんかったんじゃが李典が精製方法を知っておったんじゃと。
うむ、これは蜂蜜万能説を唱える時じゃな。きっとスコップと並ぶ万能っぷりを発揮してくれることじゃろう。
「ふむ……なるほど、まだ賠償に至らんようじゃが譲歩が引き出せそうか……む、文聘の引き抜きには成功したか」
文聘は知名度は低めじゃが史実では荒れる江夏を治めたり関羽を撃退したり孫権を撃退したりとなかなか有能な将じゃ。
この世界でも同じぐらい有能かどうかは知らぬが無能ではなかろう。
呉懿と並んで地味に頑張って欲しいものじゃ。
「文聘さんという方は文官ですか?」
「確か武官ではあるが文官の仕事もできるはずじゃ」
こちらは史実の情報ではなく、この世界で調べた情報じゃから大丈夫なはず。
もちろん書類上の情報だけでは正確に把握できたとは言えぬから確定情報ではないがの。
書類上の情報というのは当てにならぬ代表としては吾や七乃になるか。吾等は他者から見れば悪ふざけをしておるようにしか見えんはずじゃ。
「ということは仕事が減るんですね」
「ところがどっこい、李典に開発を依頼した物の品評や完成した物の生産などで仕事は減るどころか増えておるぞ」
「……ちょっと李典さんを殺っちゃっていいですか?むしろ殺るべきですよ」
「これこれ、不穏なことを言うでない」
せっかく吾等の軍がチート化できそうなのに殺されては堪ったものではない……普通は七乃の冗談と思うじゃろ?目がマジじゃからここは本気で止めておかねばならん。
「もちろん冗談ですよ?……残念ですけど」
……念のためしばらく影に監視させておくか。
しかし李典の柔軟な思考と根気強さはなかなかに得難い物じゃな。
手先が器用な者は他にもいるであろうし、知恵がある者も他にいるじゃろう。
しかし、発明とはトライアンドエラー、そしてそれを打ち破る柔軟な思考によるひらめきによって成される。
実際吾が李典に求める機能とどういう形をしておるのかイメージを伝えるだけでほぼイメージ通り形にしたんじゃから凄い。
この時代の人間としては異常者と言えるほどの才じゃな。これには華琳ちゃんでも気づいたかどうかわからんな。
原作でも李典を重用したわけでもないからおそらく気づかなかったようじゃし、この世界の華琳ちゃんが気づくとは思えんが……まぁ可能性があるとすれば吾の影響でじゃろうか?
ちなみに李典が発明したのは脱穀機と田植機じゃ。
脱穀機は水車を利用して自動化したものじゃ。千歯扱きがあれば問題ない気もするが、これを採用することによって失業者の調整をしようという計画じゃな。
脱穀機の使用料を人件費より安くすれば雇用が減り、人件費より高くすれば雇用が生まれる。
そして田植機は手動で押さなければならないが人の手でやるよりは早くできるようになった。これにより生産力アップじゃな。
もっとも現代のそれとは比べ物にならんし、故障もまだまだ起こるから改善の余地はあるがの。
そのおかげで動かせる兵力が増えるのじゃ!……もっともこれらが他に広まれば結局は戦力の伸長は似たり寄ったりになる可能性があるか……いや、資金力の違いで吾等が勝つかの。
生産の目処が立てば各地で貸出を始める予定じゃからな。売るのも良いが、故障する度に買い直しや修理する資金なんぞ誰もがあるわけではないからの。
それに副次的な点で言えば農民との接点も増えることから情報も手に入れやすくなる。もっとも接点が増えるからトラブルが増えるのでこれは一長一短であるがな。
「おかげで徴税にかかる手間が鬼のように増える予想なんですけどね。やっぱり止めません?私達に勤労というのはふさわしくないと思うんですよー」
む、本当に参っておるようじゃ。困ったのぉ。
「それでは七乃よ。一ヶ月の休暇を与えるのじゃ」
「え、でもお嬢様は働くんですよね?」
「無論」
「じゃあ休むわけないじゃないですか」
ふむ、七乃も妙に義理堅いというか……吾依存が高いというか。
しかし、ただの休暇ではないぞ。
「七乃には一ヶ月の休暇の間に優秀な文官を探してまいれ」
「なんという無茶振り、さすがお嬢様です。外道です、鬼畜です、無邪気です!」
「うむうむ、もっと褒めてたも」
「休暇と言いつつ働かせるなんて曹操さんもびっくりな人使いの粗さです」
「いや、それは言いすぎじゃろ」
吾は仕事の処理が間に合わんからブラック企業と化しておるが華琳ちゃんは個人の才を目一杯発揮するように仕事を割り振る。
つまり常に全力で取り掛からないといけない、ホワイトだけどブラックなパンダ企業と言えるじゃろう。もしくはシマウマ企業でも良いが……ここは中国じゃからパンダ企業じゃろ。
「お嬢様、五十歩百歩って知ってます?」
「あれじゃろ、孟子の故事じゃろ?五十歩逃げた者と百歩逃げた者の違いは逃げた者達の歩数によって再度編成するまでかかる時間が違うから五十歩逃げた者達の方が武功を上げやすい——」
「全然違いますから!」
もちろんわかっておるぞ?ちなみに正解は五十歩逃げた者が百歩逃げた者を臆病者と馬鹿にしていたが王からすればどちらも逃げたのに変わりないという意味じゃ。ここ、テストに出るからの。
ちなみに後で七乃に一ヶ月も休暇を吾の独断で与えたことで魯粛と関羽と郭嘉にめっちゃ怒られたのじゃ。
孫策はそれを見て爆笑しておったの……仕事を三倍に増やしてやるのじゃ……と思っておったら七乃がサラッと五倍に増やしておったのは余談じゃな。
吾は今、庭を走っておる。
これは吾が戦う方法として有効である……逃げるための体力作りなのじゃ。
え?逃げるな?いやいや、吾のようなか弱い者が岩をも砕く者達にどう立ち向かえと。
そもそも吾が倒せる程度の雑兵ならば護衛達がおるから近寄ることもできんからこれでいいのじゃ。
それにしても……体力はつくが……見た目が全く変わらんのは何故じゃ?ムキムキになりたいわけではないがもう少し筋肉がついても良いのじゃが。
「袁術様?」
「お、周瑜か。朝早くから散歩か?」
「いえ……」
言葉を濁したの。何か企みごとでも……いや、いくら若い頃の周瑜とはいえ、吾がわかるほど態度に出すことはなかろう。
ならば……何処かの誰かが仕事から逃げてそれの尻拭いか?
「ふむ、顔色も悪いし眠っておらんのじゃないか?蜂蜜でもどうじゃ?」
ふっふっふ、吾のスカートの中には蜂蜜が三リットルほどの樽が仕込まれておるのじゃ。ちと重いのが難点じゃが蜂蜜のためならばこの程度軽い軽い。
もっとも樽では木の匂いが蜂蜜に移るから陶器の方が理想なんじゃが……さすがに陶器じゃと重い上に何かの拍子で割れてしまうと吾自身が怪我をしてしまう可能性があるから断念したのじゃ。
「……良ければ頂きます」
「う、うむ、少し待つのじゃ」
まさかすんなりと受け取ってもらえるとは思わなかったんで少し慌ててしもうたぞ。
しかしこれは蜂蜜を広めるビッグチャンスじゃ。周瑜が蜂蜜を気に入れば周りの者達にも影響を及ぶす可能性が高い。
ここはとっておきを使うしかあるまい!
いや、このような場所ではなく、きちんとした場所で持て成すべきじゃな。
「では……あそこに座るとするかの」
庭には四阿(あずまや、もしくは、しあ)が用意されておるからそこへ誘う。
「あまり見たことがない花が多いようですが」
さすが周瑜お目が高い。
どういう経緯でここに辿り着いたかは知らんが周瑜が熱心に見ておるのはチューリップじゃな。
ちなみにチューリップ球根はお菓子にできるらしいが……さすがに作り方がわからん。
「それは異国の商人が持ってきたものじゃな。もう少し栽培して増やすことに成功したなら帝へ献上するつもりじゃ」
「なるほど、これはそれだけの価値があると思います」
ふむ、さすがはバブルを創りだした花なだけのことはあるな。周瑜のお眼鏡にかなったようじゃ。
「ふむ、宦官達に贈った後ならばおぬしにもいくつか贈ろうかの」
「え、いや……遠慮しておきます」
欲しいがさすがにこのようなものはもらっても困る、か?
まぁ贈るのは吾の中では決定事項じゃながな。
やはり女性を口説くなら花じゃろ。