第二百五十話
しばらく恋ちゃんとほのぼのと過ごした。
たまに蜂蜜を分け合い、そしてその度に手丸ごと食べられて丁寧に舐められて幾度……もう吾のお手々は恋ちゃんの汁でテッロテロじゃ。(意味深)
「そういえば、涼州では不便はないか?それなりに配慮しておるから大丈夫なはずじゃが」
「…………皆楽しそう」
「む、そうかまだまだ余裕があるようじゃな」
それなら涼州までの街道整備をあちらで負担してもらうかのぉ。
「ご、誤解なのですぞー!涼州の文官という文官は必死の思いで――ぐふっふがふがふが(の、退くのです!今は駄目なのです!このままでは――)」
ちんきゅーが何やら言っておったが恋ちゃんの家族に乗られて何を言っているのかわからなくなったのじゃ……まぁ大したことじゃなかろう。
しかし、洛陽から涼州までの街道整備は既に半ばを過ぎておる。ならば――
「うむうむ、ではせっかくじゃし絹の道の整備を申し渡すかのぉ」
絹の道、俗に言うシルクロードは知っての通りヨーロッパへと続く道なのじゃが、その重要度とは反して道は踏み固められた程度のもの……いや、しばし前に交易が途絶えておったこともあってそれすらも怪しいものであった。
もちろん吾がそんな重要な道を放置するわけもなく、整備は進めておる。しかし、シルクロードは下手をすればヨーロッパ圏からの侵略に使われる道でもあるため念入りに対策を行う計画じゃ。
そのため、進めてはいても牛歩の歩みなのじゃ。
元々董卓達にも手伝わせておったが、余裕があるようじゃし丸投――ゲフンゲフン、一任しようと考えたわけじゃ。
「新たな利権じゃから喜んでくれるじゃろう」(ゲス顔)
「むごむごもごもごー?!(そんなもの月達は望んでいないのですー?!)」
「美羽……悪い顔してる」
「おっといかんいかん。ほれ!いつも通りかわいい美羽ちゃんじゃぞ~」
スマイルスマイル……よし、これで大丈夫――
「胡散臭い」
「恋ちゃん……もう少し言葉を選んで欲しい――」
突然、荒い風が身体を押す。
不意を突かれた故に身体が泳いだが、恋ちゃんがそっと支えてくれて事なきを得る。
そして――前世で聞いた爆破解体のような音が耳を打つ。
「な、なんじゃ?!」
音の発信源であろう方向を見ると、そこには――
「……クレーターができておる」
直径二メートルほどの小さなものであるがクレーターができており、そしてその中心には――
「か、関羽?お目覚めかの?」
「……」
おお、むしろこっちが目が覚めそうなぐらい冷たい表情になってらっしゃる?!
というかお目覚めではない?むしろ狂気の目覚め的な?
「……大丈夫かや?」
「エエ、ゴ心配ヲオカケシマシタ」
おーぅ、全然大丈夫に聞こえないぞー。主に心が。
「何があったかは問わんがとりあえず落ち着くのじゃ。ほれ、恋ちゃんの家族も――全然動じてないのじゃ?!」
おぬしら肝太すぎやせんか?それに怯えるどころか、お前らうるさいよ的な視線までよこしておるやつもおるぞ?!
あ、そうか、こやつらはいつも恋ちゃん……いや、ここはあえて呂布と呼ぶかの。呂布をいつも身近に感じておるから多少のことでは驚かんのか。
それにこの場にはその呂布がおる以上、自分達を守ってくれると信頼しておるんじゃな。……でも少しは逃げたり警戒したりした方がよいぞ?いくら恋ちゃんでも、いや、恋ちゃんだからこそ遅れを取る可能性があるんじゃぞ?
と、そんなことを言っておる場合ではないの。
今は関羽のことじゃ。
「あ、あまり派手に動くんじゃないぞ。せっかく隠したのに見られては台無しじゃ」
「……袁術様がこれを?」
「うむ。あ、他の者には見られては――」
「し、失礼します!!!!!」
そう言い残して関羽は走り去ってしまったのじゃ。
元気そうなのはいいのじゃが……急にどうしたんじゃろ?追いかけるべきか?それとも――
「周泰!!絶対許さん!!」
爆走して早くも米粒サイズになった時にそんな怒声が届いてきた。
……まぁあの感じなら大丈夫じゃな。
「……元気一番」
「そうじゃな」
「もごもごふごふごー!ふもふも!んごんごごー!(そろそろ退くのですぞー!恋殿!助けてくだされー!!)」