第二百五十二話
「はむはむ」
「もくもく」
「にこにこ」
ドタドタドタッ
「うにゅうにゅ」
「うぐうぐ」
「にこにこ」
ドタドタドタッなのですぞー!
出された料理を次々食べる吾と恋ちゃん。
それを笑顔で眺める七乃、そしてなぜか料理を忙しなく運ばされている陳宮……まぁ陳宮は恋ちゃんの世話ができて嬉しそうだからいいがの。
「恋殿~!おかわりをお持ちしましたのです!!」
「ん」
そう言って運ばれてきたのは温泉で蒸された山女魚じゃな。
「ついでに袁術にも持ってきてやったのです!!」
「おお、感謝するぞ」
こちらは同じく温泉で蒸された蟹……しかもこれ、毛蟹……もしかしなくても上海蟹かや。
確かどこかの湖で取れる上海蟹が高級なことぐらいしか知らんが……うむ、美味い。
ついでに言えば蟹というのは現代日本と違って割と安価な食べ物なんじゃよなぁ。まぁ基本日本で食べたのは海の蟹じゃったからなぁ。
川蟹、モクズガニは食べたことがないのじゃ。少なくとも意識した上では。
ただ……これ、本当にモクズガニかや?なんかサイズが見たこと無いぐらい大きいぞ。
どちらかというとヤシガニに見えなくもないが……このフォルムはモクズガニじゃよなぁ。
「……陳宮さんはうちに所属して無くて良かったですねー」
「そんなつもりは毛頭ないのです!しかし、なぜなのです?」
「うちにはこわーい教育係がいますからねぇー」
それは紀霊のことじゃな。
吾自身はどう呼ばれようと慕ってくれているなら問題ないと思っておる(舐めた態度なら話は別)のじゃが紀霊はそれを認めんからのぉ。
だから吾のことは最低でもお嬢様、袁術様と呼ばれておる。
身近ではないものは役職である太傅と呼ばれることもあるの。未だに呼ばれても一瞬誰のことがわからない時があったりするがな!南陽太守や明府や府君などとも呼ばれることの方が慣れておるな。
紀霊は使用人なのに……いやだからこそか?他人にも忠誠を、礼儀を求めるからのぉ。
「下手をすると鞭打ちですよ?」
「ひいぃなのです?!」
脅しで言っておるわけではないぞ。マジで鞭打ちするからの。
ちなみにそれでも改めぬ場合、竹刀→木刀→真剣→ギロチンというコースになるらしい。
幸いまだ木刀までしか使ったことがないと自己申告しておったの。
吾的にはそこまでやる紀霊よりも竹刀を耐えた相手が気になるところじゃな。
対して同じようなポジションである七乃は……言わんでもわかると思うが吾至上主義で吾が二なら他は零という極端な評価じゃからのぉ。零が何を言っても気にしないわけじゃ。
ちなみに一は七乃自身じゃぞ。
この例で言うと紀霊は周りも一に引き上げようという傾向が強い。
まぁ吾がゆるゆるじゃから紀霊が締めてくれているという理由もあるんじゃがな。
それと陳宮、おぬしは怖がるのはお門違いじゃぞ。おぬしは間違いなく紀霊タイプの人間なのじゃから。
おぬしは恋ちゃん以外はあまり重要と捉えておらんじゃろ?董卓や賈駆などは多少気にかけておるじゃろうが恋ちゃんほどではないはずじゃ。
そして恋ちゃんを守るためになら拙い暴力(陳宮キック)で排除しようとするじゃろ?程度の差はあれ、紀霊とやっておることは変わらんよ。
そういえば意外なことに関羽は紀霊タイプに近いんじゃよなぁ。体罰ではなく注意を促したり教えたりするが、それで学ばなければ見放す感じで意外とクールなんじゃよ。
原作とは違うのぉ。やはり人を育てるのは環境なんじゃろうか?
それはともかく――
「ほれほれ」
「え、なんですか?!突然!!」
いや、七乃の日頃の崇拝(忠義の域ではない)を改めて感じてお返しに頭をナデナデしようと思っての。
先程まで恋ちゃんに撫でられておったから真似てみたというのもある。
驚いてはいるようじゃが、嬉しそうにしておるし……尻尾をブンブン振っている幻視が――
「ワンッ!」
…………うむ、幻視ではなく、本当におったな。犬(恋ちゃんの家族)が。
なんじゃ、おぬし。自分も撫でろとでも言っておるのか?
「ワンッ!!」
まるで吾が思っていることを肯定するかのように吠えるのぉ。しかし、今は七乃のご褒美中じゃし――
「ワンワンワンワンッ!!」
「お嬢様に撫でてもらおうなんて百年早いですよー。私で我慢しなさい」
そう言って七乃がワシワシと撫で始めた。
……なんか妙な構図じゃなぁ。
吾が七乃を撫でて七乃が犬を撫でる。
別にいいんじゃけど――なんか犬達が整列しているように見えるんじゃが?まさか順番待ちか?これは長い戦いが始まりそう……ってなんか途中に料理を片手に持った恋ちゃんが混じっておるぞ?!それになんか陳宮も並んでおらんか?おぬしも撫でてほしいのか?