第二百五十四話
夜の予定は立ったがそれまで何をしようかと今をどうするかという話になったのじゃが――
「いやいや、なぜせっかくの休暇で模擬戦なんじゃ?」
もちろんこの宿には訓練場が用意されておる……というか更地、草原、森、川、沼、岩場、砂場、市街地、城壁などバリエーションを豊富に揃えておる。
まぁこの場におる者以外の名前も知らぬ家臣も使うことになることも視野に入れて広さも確保しておる。
しかしじゃな。なぜ休暇最後の日に模擬戦なんじゃ?
「勤務に戻る前に身体を慣らしておく必要がありますから」
と気合いを漲らせておる関羽が代表して答え、他の者もうんうんと頷いておる。
なんか脳筋臭が強くなっておらんか?
というか関羽……周泰を睨み過ぎじゃろ。気持ちはわからんではないが私怨はいかんぞ私怨は……って周泰のそれも私怨だったか、なら仕方ない。
うむ、復讐は何も生まぬというがリベンジと言えばなぜか許されるから大丈夫じゃ。
そして紀霊は紀霊で恋ちゃんと相対しておる。こちらもこちらでリベンジマッチ……というわけではないようじゃが、己の成長を確かめる意味が強いようじゃ。
まだ勝ち越しておるようじゃが、勧誘した時に言っていたように関羽は技術を吸収してメキメキと力をつけておるし、周泰はバーサーカーモードだったとはいえその腕をあげた関羽を打倒するぐらいには実力を付けたことで今まで家臣最強の座も揺るがされておるから気合いが入っておるんじゃろう。
本人ももうしばらくは壁として存在したいと言っておったしな。
それに対して恋ちゃんはいつもどおりボーっとしておるのぉ。
本当に原作知識や史実の話を知っているとこれが天下無双の呂布とはとても思えんなぁ。
他の者達と違ってやる気はそれほどじゃが孫権と魯粛が向かい合っておる。
二人は鍛錬というよりどちらかというとダイエットが目的で――
「「お嬢様?」」
「なんでもないぞ?うん、ちょっと乙女な二人が可愛くての」
「「お嬢様!!」」
正月太りならぬ休暇太りなんてあるんじゃろうか?まぁ美味いもんを食べてだらけておったから不思議ではないか。
………………ところで――
「なぜ吾が陳宮と相対しておるんじゃ?」
「この音々音が胸を貸してやるのです!」
えー、吾が陳宮と戦う?そりゃ恋ちゃん相手するよりはいいんじゃが……別の意味で戦いにくいのじゃが。主に怪我でもさせて恋ちゃんに嫌われないか心配なのじゃ。
「大丈夫。音々、丈夫」
いやそう言われても丈夫だからよし行くぞ!とはならんから。
「なんだか子供を虐めておるみたいで気が引けるんじゃよなぁ」
「カッチーンなのです。先程から聞いていたら音々に喧嘩を売っているのですね?!いいのです!全力で買ってやるのです!」
「ふむ、吾の喧嘩を買うと言うならこれぐらいは用意してくるのじゃ」
「なんですかこの額は?!涼州の年間予算十年年分でも足りないのです?!」
「吾の喧嘩なんじゃからこれぐらいは当然じゃろ」
というか涼州の予算を知っておるとは……陳宮はちゃんと仕事しておったんじゃな。
「やっぱり喧嘩を売ってるのです!万引してやるのですぞ!」
あ、買うのは諦めたようじゃな。……喧嘩を万引って……パワーワードすぎるじゃろ。
「それと音々と袁術とではそんなに身長は変わらないのです!」
「あ、それ言っちゃうのかや?それ言っちゃうと全面戦争待ったなしじゃぞ?涼州への援助打ち切るぞ?」
「ひ、卑怯なのです!」
ふっふっふ、勝てば官軍なのじゃー!札束で殴りつける!これぞ吾の、吾等の最大の武器なのじゃーーー!
「さすがお嬢様!平気で涼州の民を地獄へ突き落として呂布さんにも喧嘩を売るなんて!よっ!奈落への道を突き進む天下一無謀娘!」
「むはははは、もっと褒めてたも褒めてたも!!…………いや、冗談じゃからな。こんなことで援助打ち切りなんてせんぞ?だから恋ちゃん、ジト目はやめてたも」
「……信じてた」
ほんまか?ほんまに信じておったか?
「つべこべ煩いのです!こうなったら実力行使なのです!喰らえ!陳きゅーーーーーーーーーーキィィィィィック!」
陳宮が跳躍すると同時に全員が動き出す。
まさかこれが合図じゃったのか?息が揃いすぎじゃろ。
っと、他に気を取られておる場合ではないの。
「吾を舐めないでもらおうか」
これでも武術は護身術程度じゃが足腰だけはしっかり鍛えておるんじゃぞ。
フラフープを回すように腰を入れてスカートを持ち上げて陳宮を払う。これが普通のスカートなら煩わしくは感じるじゃろうが障害になるはずもないそれじゃが――
「痛いのですっ?!」
ゴスッという鈍い音を立てて狙い通り陳宮を迎撃することに成功した。
「どうじゃ。吾の蜂蜜流護身術の味は」
吾のスカートの内側には蜂蜜の入った壺(特別製)があるからの。このスカートを振るうだけで下手をすると骨折するぞ。
もちろんそんなことを望んでおらんから結構手加減はしておるぞ?
「むぅ、なかなかやるのです」
「というかおぬしはそれしかなかろう?諦めて降参したらどうじゃ?」
「まだです!まだ終わらないのです!」
赤い彗星かなにかかの?