第二百五十五話
陳宮キック以外にも陳宮パンチ、陳宮ヘッドバット、陳宮タックルなるものが存在することを知ったのじゃ。我が身をもって。
まぁ全部迎撃して陳宮は涙目じゃがな。
うむ、一つこの戦いでわかったのじゃが、陳宮ですら素手同士なら一般兵――この場合の一般兵は訓練された兵士ではなくて徴兵された一般人――よりも強いことじゃな。
そして――
「そろそろやめるのじゃ。それ以上はさすがにきついじゃろ?」
恥も外聞もなく、地面に横たわり、激しい息遣いをしておる陳宮。そしてそれを成したのは吾である。
つまり、思ったよりも吾は強くなっていたようじゃ。
そうは言っても一般兵よりも強いというだけで武官じゃと下っ端にすら負けるじゃろうがな。無双なんてそれこそ夢想の世界のみじゃな。これぞ恋姫夢想なんちゃっての。
「諦めたら……戦いは、そこで終了なのです!」
スラムダンクかや?言っておる方がボロボロじゃから差異はあるがの。
というか今日は随分そちらのネタっぽい台詞が多いのぉ。
「これが……これが音々の全力全開なのです!」
今度はリリカルなのはか……ああ、そうか、今までこの手のネタがあまりなかったのは戦闘シーンがなかったからか?!……そんなわけないか。
「稲妻陳宮キィィィィック!」
「名前が派手になっておるが全然変わっとらんのじゃ!」
今度はトップをねらえか、これは酷いのじゃ。
とりあえず、袖に忍ばせておる投擲用に蜂蜜壺を縄で縛ってあるを手早く取り出し、三回ほど回して投げつける。
空中を跳んでおる上に既に体力も限界であったからじゃろう、無防備に陳宮の額に直撃し、やっと倒れて動けなくなった……というか鍛錬ごときにそこまでやらんでもいいじゃろうに。
……反応がまったくないんじゃが大丈夫じゃろうか?心配になり近づいて様子を慎重に伺う。
慎重になっておるのは気絶したフリをして襲ってくる可能性もあるからじゃ。というか吾がピンチの時に使おうと思っておる戦法の一つじゃからな。
「うむ、見事にノビておるの」
ふぃー、疲れたのじゃ。
全く、そこまで意地にならんでもよかろうに……まぁそのガッツは認めるがの。
「お疲れさまですー」
終わったことを察した七乃が蜂蜜檸檬水を差し出してきたので受け取り口をつける…………ん?
「七乃、手ぬぐいは無いのかや?」
こういう基本的なミスをするとは七乃らしくないのぉ。
「ここにありますよ?」
「……ならなぜ渡さぬのじゃ?というかいつも以上に距離が近くないかの?」
「くんくん」
「…………」
「スーハースーハー」
「…………」
「スーーーーーハー……スーーーーーーハー」
「…………」
そして時は動き出す。
「七乃、何をしておるんじゃ?」
「お嬢様のお汁の香りを楽しんでます!」
「言い方!!言葉のチョイス!!TPO!!」
「ちょっと何を言っているのかわかりませんねー」
くっ、TPOはともかくチョイスぐらい通じてもいいじゃろ!!キックとか平気で使っておるくせに!!
「ほら、お嬢様はいつも走り込みをしていらっしゃいますけど、直にお風呂に入っちゃうじゃないですか」
「うむ、吾は中華一綺麗好き――「ビクッ」――いや、紀霊は好きじゃけど今のはそのキレイではないぞー」
お願いじゃからあっちこっちでボケんでくれんか?吾がボケる分には良いがツッコミを入れるのはあまり得意ではないぞ。
しかも反応したことで恋ちゃんの一撃が掠ってしまっておるではないか?!
それと孫権と魯粛!おぬしら何こっそり近寄ってきておるんじゃ!そして先程まで平然としておったはずなのに突然息が荒々しくなっておるんじゃ?!
「それでですねぇー。直にお風呂行っちゃうので匂いが嗅げる機会が少ないので少ない機会を逃すわけにはいけないのです!」
「いや、そんな握り拳を作って力説することじゃなかろう!」
そして孫権と魯粛も頷くでない。
それとこっそり紀霊も頷くでない。そんなことしておると――ああっ?!今度は結構当たってしまったぞ?!大丈夫かや?!
「いやですねー。お嬢様も私達の匂いを嗅いでいるじゃないですかー」
「吾が嗅ぐのは良いが嗅がれるのは駄目じゃ!」
「お嬢様ったらケチですねー」
「金ならあるぞ?」
「お嬢様よりお金持ちの人はいませんねー。唯一対抗できそうなのは魯粛さんですけど……持ってないみたいですねー」
というかなぜ魯粛も孫権もこちらを見ながら戦えるんじゃ?もしや打ち合わせでもしておるのか?
紀霊よ、先程から言っておるが、仲間はずれにされて気になるのはわかるが恋ちゃんの相手をしながらよそ見するのは無謀じゃ――あああーーー?!紀霊が吹っ飛んだ?!
「き、紀霊は大丈夫じゃろうか」
「大丈夫でしょう。ほら、お嬢様、応援してあげてください」
「う、む。紀霊~頑張るのじゃ~」
うぉ、突然起き上がって恋ちゃんに猛然と挑み始めたぞ。
「大丈夫でしたね」
「うむ」
よし、話をすり替えに成功。そして速やかに撤退を――
「では、次はお汁の味の方を……」
「決してNO!!」
吾はNOと言える中国人なのじゃ!