第二百五十八話
なんというか……今更ながらこの世界の武官は本当に同じ人類なのか疑問に思う。
紀霊にしろ関羽にしろ七乃にしろ恋ちゃんにやられた一撃は間違いなく重症……内臓へのダメージや骨が折れたりするほどの威力があったと思うんじゃ。
「おかわりをお願いします」
「私も」
「同じく」
しかし、実際は目の前に健啖さを示すようにもりもり貪り喰う三人の姿がある。
なにせこの三人、診察してみれば青あざしかないというではないか、ギャグ補正が本当に存在する可能性を疑ったぞ。いや、少なくとも関羽と七乃は真面目にやってゲーム補正か?
もしや史実補正がなければ惇ちゃんの左目も生えてくる可能性もあったかもしれん。己史実補正、吾の幼馴染を傷つけおって!(言いがかり)
「何にしても大した怪我がなくてよかったのじゃ。七乃なんぞ膝から崩れ落ちたから心配しておったんじゃぞ」
まぁその心配の要因を作ったのは罰として命じた吾自身なんじゃが……関羽や紀霊は生粋の武人じゃから(片方は使用人と言い張る)ある程度は心配せんが七乃は職種:七乃じゃからなぁ。
「……ズル……ズル……ズル……ズル」
ちなみに無双した恋ちゃんは今、椀子そばを食べておる。
ああ、ただの椀子そばではないぞ?かき揚げや海老天やじゃこ天、豚の角煮、あんかけなど様々なトッピングがされておるものが次々椀に注がれる……すっごい速さで口の中へと消えていくがな。ちなみに食べ終わったお椀は重ねられておるが……ひ~ふ~み~よ~いつ~む~や~こ~……一列十五じゃから百二十杯食っておるな。この前にピザ二十枚食べてなんじゃから恋ちゃんの胃袋にはブラックホールがあるに違いない。
「むおおぉぉーーー、体中が痛いのですぞー」
ただ一人、へばって動けない者がおる。その名は……まぁ喋り方でわかると思うが陳宮じゃ。
武官でもないのに無茶をするからじゃ。かくいう吾もそれなりに鍛えておるのにかなり疲れたからのぉ。
……ん?そういえば物凄く今更ではあるが袁術って史実ではリアルヒャッハーな人のはずなんじゃがなぜ武力補正がないんじゃ?董卓はあるのに……まぁ董卓ほどの逸話は無いし、間抜けな死に様じゃったから仕方ないかのぉ。一時は次の皇帝は袁紹か袁術かと競い合うほどの勢力であったんじゃがな。
「ほれほれ、つんつんつんっとな」
「にょわーー、やめるのですーー」
脇腹をつついてやると反応して面白いのでしばらく遊んでおったら恋ちゃんが近づいてきた。
もしや止められるか?と思ったら――
「……ん」
片手にはいつの間にか新たに焼かれたピザ……ではないな。分厚くてふっくらしておるからピザパンか……微妙にアレンジされておるな。それにもう片方の手には……この匂いはピザまんか?というか恋ちゃん、ピザにハマったのかや?そういえばチーズフォンデュも好きじゃったからチーズが好きなのかもしれんな……吾も後で食してみるかの。
ともかく、そのピザパンを陳宮に差し出したところを見ると止めに来たのではなくお裾分けしに来たようじゃ。
どうせならば助けてやればいいのに……恋ちゃんの思考回路はわからんのぉ。
「恋殿~ありがと―――――」
「ハム」
……まさかのフェイント。
ヒョイッと引っ込め、パクッと自分の口の中に消えていった……まさか恋ちゃんがこのような高等技術を習得しておるとは?!
「――」
あぁー、吾以上に予想外だったんじゃろう。ショックで陳宮がフリーズしてしもうておるぞ。
「……美味しい」
止めの一撃。
――そして時は動き出す――
「恋殿~~~~~~~!」
ガチじゃ。
ガチ泣きじゃ。
大粒の涙がボロボロと零れ落ち、絨毯に新たな模様を描く。
いや、そこまで泣かんでも……ほれ、やった恋ちゃんがめっちゃオロオロしておるではないか。大軍に囲まれても、どんな強者が現れても欠片も動揺せん恋ちゃんがじゃぞ。
「冗談……ごめん」
「恋殿~~~~~~~~~!」
本来なら抱きつくところじゃろうが、筋肉痛と負傷(痣)で動けず伏したままじゃな。
「……はい」
「……あむ……美味しいのですぅぅ……ぐす」
今度こそ食べることができた陳宮は未だに涙が完全には止まっておらんが落ち着いてきておるな。
よかったよかった。
「恋殿がこんなことをするとは……やはりお前達は恋殿に悪影響を及ぼすのです!!」
なんか陳宮が言いがかりを……………言いがかりとは言い切れんか?董卓のところでこういうやり取りをするのは張遼あたりじゃろうが、張遼の影響を受けておるなら既にこの手の悪戯を仕掛けたおるじゃろうからこれほど大げさに泣いたりはせんじゃろう。
つまり――勝手に学んだ恋ちゃんが悪い以上、証明終了じゃ。
……ところでこの羽つき餃子、めっちゃ美味いんじゃが誰が作ったんじゃ?ぜひスカウトしたいぞ。
「露骨に話を逸らさないで欲しいのです!!」
それでも吾はやってないのじゃ!