第二百六十七話
「あわわ……ど、どうしよう朱里ちゃん」
「どうしようね雛里ちゃん」
劉備陣営の頭脳である諸葛亮孔明と鳳統士元は問題に直面していた。
益州の玄関とも言える桟道が焼け落ちたり土砂崩れによって破壊され、交易路……特に輸出する際に利用していた長江で突然海賊が現れたことで航路が不安定になってしまったのだ。
しかもなぜか大きな商家では物資が買い占められていて急激な物価上昇が発生までしている。
もちろんこれらは袁術による(度が過ぎた)悪戯と張勳の(悪)ノリと孫権の本気(主要成分)によるものである。
袁術や張勳が計画していた段階では漢中と益州を繋ぐ桟道を何らかの方法で塞ぐだけの予定だった。しかし、その計画は孫権が猛烈に反対……というか修正を熱望し、採用。
こうして場当たり的に決めた悪戯が本格的な経済制裁へと変貌することとなった。
ついでにいえば諸葛亮達は確証を得られていないが、今回のことは袁術達の仕業というのは予想できていた。できていたがだから何だという話である。
益州から打って出るなんていうのは史実の北伐から分かる通り無謀である。特に諸葛亮は兵站を重視する傾向にあるので桟道が潰れた今では兵站の維持どころか出兵すらもできない。そもそも諸葛亮達すら把握できていないが兵士となる奴隷階級の人間が買い漁られ、人口が減少していて袁術側はその分増加している。
ちなみに諸葛亮達が把握できていない理由が奴隷階級というのは戸籍を持っているわけではないために気づかないのだ。
そして外交的な抗議などできようはずもない。なにせ劉備は正式に任官されているわけではなく、武力行使で益州を占拠しているだけで、袁術側からは益州は無法地帯扱いされている。
そんな立場で抗議できるはずもない。
「これじゃ南蛮品の輸出ができない……」
しかし益州の主要産業は袁術の裏商会に抑えられ、そして裏商会に借金している劉備陣営は税収が極端に少なく、唯一の収入源といえるのは南蛮品の輸出であった。
それが行路の乱れによって絶たれたことで窮地に立たされることとなったわけである。
「桟道の復旧には三ヶ月……無理しても二ヶ月ぐらいは掛かりましゅ」
「……孫策さんに河賊の討伐を依頼しましゅ」
カミカミなのはおいておくとして、河賊の討伐を自分達で行わず、最初から孫策に投げようというのは三つの理由がある。
まずわかりやすい理由としてそんな資金がないこと、そして現実問題として劉備軍の水軍は数も質も貧弱であり敗北してしまう可能性が濃厚なこと、逆に孫策軍の水軍は精強であり何より孫策達は朝廷から正式に太守として任官されているため、治安回復を理由に軍を動かすのに問題が少ない。
そして――
「なるほど、孫策さん達が味方かどうか見極めることもできる……」
「うん」
袁術の下で中華は安定している。この状態が続けば続くほど自分達の大義は色を失い、味方も減る。
そして正式に任官している孫策がその立場で満足する可能性は無きにしもあらず。
故に探りを入れようと考えたのだ。
「……それに孫策さんもそろそろ戦いたくてうずうずしているはず」
「――なんて思われているのではないか、雪蓮」
「心外ねー。私を血を見ることにしか興味がない鬼か何かと勘違いしてない?」
「あまり違わないだろ」
「否定できないわね」