第二百七十一話
「お嬢様~、袁紹さんからお見舞いが届いてますよ~」
「ん?袁紹ざまぁからかや」
「多分あちらの方面でもお嬢様が倒れたという情報を流したので不思議ではないと思いますよー」
まぁ昔はよく見舞いの品を贈っておったからのぉ。主に吾が、じゃが。
袁紹ざまぁはお嬢様のくせに昔から妙に行動的じゃったからよく具合を悪くしてはよく怒られておったのぉ。
「お嬢様も負けてはなかったと思いますけどねー」
吾は怒られるようなヘマはあまりせんかったじゃろ?
懐かしい思い出じゃ。
「にしもて噂を流してから到着までの時間を考えると随分と早いの?」
「それは商会の運送業のおかげですねー。それに袁紹さんはお金に糸目をつけなかったようで最速便の最高保証を付けて届けられましたよ」
それ、本当は帝への貢物を想定したものなんじゃが……まぁ袁紹ざまぁじゃし良いか。
ただいくら流通網を構築したからと言って中国の最南端から洛陽まで四日程度で届くとはな。
「と言うておる割には手ぶらじゃが?」
「あー……さすがにあれをここに持ってくるのには抵抗があったんですよねー。まぁそれはそれで面白そうですけど」
……袁紹ざまぁはいったい何を送ってきたんじゃ?
「あちらを御覧ください」
まるでバスガイドのような仕草と声のトーンじゃの……まぁ吾が仕込んだのじゃが。
とりあえず七乃に促された方に向き直ると示し合わせがされていたかのようなタイミングで障子が開かれた。
そこに現れたのは――
「わっしょい!わっしょい!」
「わっしょい!わっしょい!」
「わっしょい!わっしょい!」
「わっしょい!わっしょい!」
…………筋肉、筋肉、筋肉、筋肉…………そして筋肉達が担ぐ金ピカな神輿。
「まさかと思うが……」
「はい、そのまさかですね。あれが袁紹さんのお見舞い品です。あ、手紙もありますよ」
はい、と寄越した手紙を早速読んでみる。
『病で倒れてしまったお間抜けなおちびさん、御機嫌よう』
いきなりかっ飛ばすのぉー。喧嘩なら買わんぞ。
買ったが最後、また書類がダムが決壊したかのような量が流れ込んでくるのは目に見えとるからな。
まぁ間抜けなのは確かじゃし……孫権には見せないようにせんといかんな。変に暴走されても困るからの。
『一応、一応!多少はお世話になった身ですから何か送らなくてはならない……と斗詩さんと猪々子さんがどうしても!どうしても!送った方がいいというので仕方なく送って差し上げましたのよ。感謝してくださって結構ですのよ。お~ほっほっほっほ』
……いや、文字で笑い声まで書かなくとも良いと思うが……袁紹ざまぁらしいから良いか。
『ただ、薬とかお金はそちらで手に入らない物はないでしょうから――』
確かに、ここは天下の中心、世界の中心とも言える洛陽じゃからな。欲しいものは大体揃う……というか袁紹ざまぁにそこまでの思考能力があったとは驚きじゃな。
『――縁起物として美しく!上品!乗り心地が良い!神々しい!神輿をお送りしますわ』
そしてその思考能力はなぜこれに辿り着いたのかも謎じゃな。
というか上品?この金ピカが?そもそも乗り心地が良いって……おぬし、これに乗っておるのか?まさか普段遣いしたおるわけではあるまいな。そして袁紹ざまぁ自身が都落ちしておる段階で縁起が良いと言って言いものかどうかも疑問じゃの。
『追伸ですわ。お隣の貧乏人達が煩くて仕方ありませんの。河賊だけでもどうかなりませんの?治安維持は政府の仕事ですってよ』
ん?お隣の貧乏人というのは劉備や北郷達のことじゃよな?孫策達は貧乏人というほど金に困っておらんはず。
それで河賊?長江じゃよな?そんなもの指示しておらんから本当に自然に出たものか?しかし甘寧が統治しておる場所で河賊がそれほど長期的に居座れるとは思えんのじゃが。
「何か知っておるか?」
「んー、記憶にありませんねー」
となると自然発生か甘寧の指示によるものかのどちらかということかの。
甘寧といえば孫権との繋がりが強いし、孫権に聞いてみればなにかわかるかもしれんな。