第二百七十二話
せっかくの見舞いの品なので乗り心地を確認しようとしたら七乃にやんわりとしっかり止められてしもうた。
七乃曰く――
「まだ具合が悪いみたいなのでゆっくり寝てましょうねー」
だ、そうじゃ。
吾にそんな自覚はなかったのでなぜそう思うのか確認してみると――
「だって平常時のお嬢様ならあんな恥ずかしい物に乗るなんて選択肢はありませんよ?」
……ぐぅの音も出ん理論じゃな。日頃の吾ならいくら見舞いの品じゃからと……しかも袁紹ざまぁからの見舞いにそんな配慮をするはずがないのじゃ。
うん、まだ具合が悪いっぽいの。
「それに宮廷内で神輿に乗るというのも問題があるでしょうしねー」
それもあったのぉ。帝軽視の行動は没落フラグじゃからさすがに慎むべきじゃよな。
……ブラック企業ばりに帝に書類仕事をやらせておいて今更感が半端ないが……まぁ働く帝という姿勢を見せたことで官僚達も意識せざるを得なくなって腐敗の抑止効果はあるようじゃがな。
こんなことなら吾も働く姿勢を見せておけば……うん、面倒なことになったじゃろうなぁ。吾がやったところで官僚達が気が引き締まる!なんてことはなかろうし。
「あ、そういえば袁紹ざまぁに返礼品を用意せねばならんかの」
「そうですね。儀礼的にはそうなりますね」
「ふむ、ならばあれじゃな。前例に習うとするかの」
「前例というと……」
続きの言葉を声にはせんが七乃それを察したようじゃな。
「あれじゃ。ほれ、董卓に絹の道の整備を任せたじゃろ?だから袁紹ざまぁにもそれでいいじゃろ」
つい黒い笑いがもらてしもうた気がするが……ここにおるのが七乃じゃから問題なかろう。
「もぅお嬢様ったら~悪いこと考えますね~」
と言いつつ七乃も悪い顔を……しておらんな。いつもどおりの笑顔じゃ。
まぁ七乃は日頃からこういうやり方をしておるからの。
「その言い方は人聞きが悪いですよー。皆さんに支えられて今があるんですヨ?」
なんじゃ、その口だけの政治家みたいな言い分は……おや?吾等もその政治家じゃったか。あまり意識せずに好き勝手してきたので忘れておったわ。(今更感)
それと七乃、おぬしの場合支えられてというか無理やり支柱にする、の間違いじゃろ。
ちなみに吾は違うぞ?ちゃんと蜂蜜という対価を払っておるし……ウン、我社ハほわいと企業デス。睡眠時間ハ(生きていける程度には)必要十分デス。
「では袁紹さんに官位でも与えておきますか?ほら、ちょうど益州牧とか空いてますし」
七乃が超えげつないことを言っておるぞ。
益州牧なんかしてしまえば劉備VS袁紹ざまぁ待ったなしではないか。
まず間違いなく袁紹ざまぁが負けるぞ。主にフラグ的な意味で……あ、でも関羽が吾の下におるから二枚看板の死亡フラグは若干折れておるか。その代わり張飛か趙雲に討たれるイメージしか湧かんけども。
「袁紹ざまぁ達が負けて得するのは劉備達じゃからそれは止めておくのじゃ」
「ですよねー」
わかってて言っておるあたりなかなかに黒いな。七乃。
そもそもそんなことをすると今吾の下にいる袁紹ざまぁ派が謀略じゃと騒いで復讐に来るかもしれんじゃろ。
この時代の名門は舐められたら終わりというヤクザな商売な部分がある。もちろん拝金主義な部分もあるのじゃが、プライドは金よりも重い。
そして袁紹ざまぁを謀殺してしまえば自分達を軽視していると考え暴走する可能性があるんじゃよ。もちろん数は少ないじゃろうがその数少ない刃が万が一吾に届くかもしれぬしの。同じ袁家であるがゆえ余計に面倒なんじゃよ。
ただ、謀殺はせんが忙殺はするつもりじゃがな。
「上手いこといいますねーお嬢様」
「じゃろ?」
「ただ忙殺されるのは袁紹さんじゃなくてその周りの人達ですけど」
「うむ、袁紹ざまぁは最後の最後までおーほっほっほっほと笑っておるじゃろうな」