第二百七十四話
姉さん、事件じゃ。
落ち着いて聞いて欲しいのじゃが……七乃と孫権が風邪を引いてしもうたのじゃ。
「全く、二人揃って風邪なんぞ引いて……一体誰が吾の面倒をみるのじゃ」
……ハァ、二人がおらんとなんかやる気が出んのぉ。
「何か御用があれば私に言っていただければ……」
と側に居て、そう声を掛けてきたのはなぜかメイド服を着て気合いが入っている様子の関羽さんじゃ。
しかしのぉ。関羽はのぉ……なんというか付き従うというより監視されている感が半端ないんじゃよなぁ。故に『献身』という意味では七乃や孫権に勝てる訳もないしの。
ちなみに使用人の本家中の本家である紀霊はどうしているかというとちょっと出撃中なんじゃよ。
実は揚州を任せておる袁遺から援軍要請が入ったんじゃよ。
どうやら揚州南部の蛮族、山越(越とも言う)が今までそれなりの友好関係を築いておったのになぜか突然略奪を開始。
袁遺は外交での決着を求めたが逆に調子付かせる結果となり、仕方なく武力での解決に踏み出したそうじゃが……報告通りなら敗北、とまではいかんようじゃが勝利とも呼べるようなものでもないという微妙な感じになっているそうな。
その背景にはどうやら地方豪族が裏で山越と繋がっているようだとのこと。
証拠を探しているがなかなか見つからず苦戦、あまり長い間混乱させるのは袁遺の名声はともかく、袁家の力を軽んじられ、下手をするとこの未熟な安寧を脅かすことになりかねないと袁遺自身が吾に要請したのじゃ。
うん、袁家には少ない真面目なやつじゃの。
まぁ断るという選択肢はないので派遣は決めたんじゃが、そこで問題なのが誰を向かわせるのか、であったのじゃが。
候補は孫権、関羽、紀霊であった。
まず孫権は幹部の文官の中で比較的武官に近い存在であるため、近衛の指揮を一部任せようと思い、そのステップとして任せようとしておったんじゃが……知っての通り風邪でダウンしておるからのぉ。
ああ、ついでに言うとこの報告が着たのは吾が前線復帰、そして七乃孫権が寝込んだのが一昨日で、紀霊が出立したのは昨日のことじゃ。派遣軍は実働戦力(補給部隊や慰安部隊を除いた実数)を六万ほど動員。その他諸々合わせると八万程度じゃ。このぐらいの戦力なら質を気にせんかったら翌日ぐらいには動かすことができるんじゃ。
で、残ったのは関羽と紀霊じゃがなぜ関羽ではなく紀霊を採用したのかというと簡単にまとめるとその経験じゃな。
経験というのは軍を率いた……などというものではなく、それはもっとくだらないが大事なことじゃ。
簡単に話をまとめると関羽を袁遺……もっと正確に言えば袁遺の周りにいる他の袁家と関わらせたくないだけなんじゃがな。
吾としては関羽の能力は認めておるんじゃが……袁家という馬鹿……ゴホン、特殊な人種(吾も含む)を相手する能力は紀霊の方が長けておる。というか関羽じゃと下手をすると感情に任せて斬り捨ててしまう可能性がある。
吾的には別に構わんのじゃがやはり責任問題に発展してしまうからのぉ。あまり迂闊なことはさせられんということで紀霊に任せることになったんじゃ。