第二百七十六話
吾がいくら心配しようと時は進み、そして世界も動く。
もう何万枚目かわからぬ報告書に目を通してそろそろ目が零れ落ちそうな気がしてきた頃にその一文を発見したのじゃ。
「頭が良く、手段と目的を履き違えて諦めが悪い人間は厄介じゃのぉ」
誰のことかといえば諸葛亮孔明、鳳統士元のことじゃ。
往生際の悪い事に一定の物資を配給制にすることで効率化し、更に税の未納者の取締を厳しくして見せしめることで治安を、そして犯罪者という新たな奴隷を生み出し、浮いた物資や労働力で水車を増設して誰が開発したのか機織り機まで設置したらしいぞ。
大人しく吾に頭を下げれば良いものを……民の暮らしだけは保証してやったのにのぉ。
とはいえ、劉備等も余裕がなくなってきておるようじゃな。多少の強引さは今までもあったがここまで露骨な強引さはなかったのにのぉ。少なくとも民には……南蛮者にはあれじゃったがの。
ああ、後、何やら託児所のようなものを作って子供を集めて大人の労働力を子育てから仕事へと転化させておるようじゃ。
というか最先端行きすぎじゃろ!まぁ女尊男卑なこの世界であるから現代より女性寄りの政策を行うと自然とそうなると考えれば納得ではあるが。
そして、もっとも驚きなのが――
「まさかここで北郷一刀と事を構える動きを見せるとはな……偽装か?」
明らかに劉備達が戦の準備を始め、それに備えるように北郷達も防備を固め始めておる。
確かに吾等は以前から劉備と北郷の離間工作を行ってきたが、正直それが起因になっているようには思えないんじゃよなぁ。
あの平和主義の劉備から戦を仕掛けるとは思えんのじゃが。
いや、そういえば北郷の軍勢と考えなければ劉備対馬超か……ある意味ロマンがあるの。馬超といえば曹操と戦ったのが一番の見せ場じゃからの。
ぶっちゃけ馬超って五虎将軍の中であまり目立たぬ存在じゃよなぁ。関羽、張飛、趙雲は当然として、黄忠は曹操の片腕である夏侯淵を討ち取っておるしわかるんじゃが、馬超は劉備に仕えてからの目立った戦績はないのじゃ。
むしろ頑張ったのはここにいるぞー!こと馬岱じゃな。……あ、もしかして馬岱に厚みをもたせるための馬超か?それなら納得できるが。
話を戻すとして――
「それとも別の狙いがあるのかのぉ……まさかとは思うが、袁紹ざまぁ狙いか?」
可能性としては十分あるの。
なにせ益州の物資を商会を通して運び出す際に使っておるし、今となっては集積地的な役割を担っておる。まぁこれには袁紹ざまぁの黄金律もあるじゃろうがな。
金と物で溢れており、地元の者達は南の商都と誇っているそうな。
ちなみに実際のところを言えば、南の商都と言えるのは吾が開発した建業じゃ。なにせ揚州は広く、そして吾等が手を加えて長い地ゆえに発展目覚ましく……異民族がおるが……更に荊州、何より宛にも繋がる長江(正確に言えば長江最大の支流漢水が襄樊に繋がりそこから宛に繋がる)ので物資が集まらないわけがない。
まぁつまり井の中の蛙大海を知らずということじゃな。まぁ水を差すのも悪いからあえてなにかしようとは思わんが。
「しかし、どうするかの」
弓を引いた親戚ではあるが、さすがに見殺しにするのも悪いから支援するのは吝かではないのじゃが物資は十分あるじゃろうし金も同上、一番欲しいのはどう考えても兵士と将じゃろ?そして吾が欲しいのは兵士はともかく将は同じく欲しいし、一応謀反人的な扱いの袁紹ざまぁにそれほど手厚くできんしのぉ。
「んー、孫策に頼むか。あやつもそろそろ戦いたくてうずうずしておる頃じゃろうし……まぁ吾の杞憂かもしれんがの」
「なんかまた失礼なことを言われた気がする」(南の虎さん)