第二百七十八話
結局は諸葛亮が粘りに粘って袁紹が折れることで追加融資を受けることに成功してこれである程度は目処がついたと喜び益州の州都、成都へと帰る足は軽かった。
しかし、諸葛亮が帰り着いた成都は出立した時とは違った雰囲気に包まれていた。
その雰囲気はピリピリしたもので、それは民や兵士、官僚までもが纏っている。そしてこの雰囲気に諸葛亮は覚えがあり、だが自分を抜きでそんな話になるとは思えないのだが嫌な予感は止まらずに親友にして好敵手にして戦友である鳳統の下へ駆ける足は自然と早くなり続けた。不安に思う気持ちと比するかのように。
「雛里ちゃん!」
その人物は思ったよりも早く見つかった。
それは探し人自身も探していたからである。
「朱里ちゃん!待ってたでしゅ!!」
いつもなら噛んだことを恥じるところだが、それも気にしないほど慌てている様子であった……というよりも慌てている。
「どんな状況でしゅか?!」
ここの軍師達は戦場以外で慌てると噛み癖が出るため、シリアス感が薄れてしまうのが玉に瑕である。
「それが――」
そしてこの緊張状態の正体が語られた。
益州出身の豪族や官僚達が止まらない貧困に業を煮やして現王朝に臣従を訴え、その手土産として現王朝の実質支配者と名高い袁術に弓引く北郷某の首を取らんと言い出したのだ。
「他に方法がないとはいえ、この情勢で私が動いたのは迂闊だったかも」
こういう勢力が出てくるのは諸葛亮は予想済みだった。
なにせ神輿の代名詞のような劉備は問題ないが、現在起こっている経済不安や有効な政策が行われていない(厳密には手は打っているがマイナスが大きすぎるため分かりづらい)ことから幹部達がへの嫌疑が生まれている。
そして幹部筆頭は当然諸葛亮なので、彼女が留守にしている間に動くというのも人数は多いが権力をあまり有していない彼らにとっては当然のこととも言えた。
「それとね……まだ続きがあるの」
それに対抗するように声高に主張を始めた者達がいた。
貧困に喘いでいるのは同じだが、劉備に従い、現王朝に従うつもりはなく、だけど武功も稼ぎたいという勢力である。
そしてその勢力が目を付けたのが――
「袁紹さん達のところに?!そんな道理が通らないことを?!」
彼らの言い分としては自分達の富を奪い、その富を貸し付けて更に富を奪おうとする強欲にして傲慢な行いに天誅を!という鏡を見てみれば?というような内容を主張。
二つの派閥が構成されたが、一つだけ合致したことがある。しかも嫌な合致の仕方を。
どちらにしても軍を導入する必要があるので軍備だけは整えよう、と。
「そんな……どこにそんな余裕があるというのです!」
止めきれなかった鳳統にも責任はあるもののその流れに抵抗できなかったというのは諸葛亮も理解はできたが故にただの愚痴でしかない。
地元勢力と軍部の中間層が結託すれば、現在の劉備陣営の最大の勢力と言っても過言ではないほどの勢力になってしまうため、発言を気をつけなければ一気に反乱へと繋がる可能性が高かったのだ。
それに鳳統は、面倒だからそれぞれの派閥で二方面作戦で良くね?という流れにならないように、せめて諸葛亮が帰ってくるまでの時間稼ぎに力を入れていた。
北郷にしろ袁紹にしろ数では劉備勢には劣るためにそういう展開もありえたのだ。ただし、北郷には涼州の屈強な騎馬隊が、袁紹には有り余る金と物資があるため鎧袖一触とはいかないことは容易に想像ができるはずなのだが……人間の感情というものは時にそういったことを無視して突き進んでしまうことはよくあることなのだ。