第二百八十話
「苦しいの~苦しいの~」
これがまさしく苦肉の策というやつじゃの。
なんにも解決にせぬその場しのぎの交易ルート開拓……しかも販路開拓ではなく、リアルルート(道)を開拓なんて無茶が過ぎるじゃろ。
もしやあれか?吾の交通網で赤字にならずに黒字を叩き出しながら作っておるから勘違いでもしたのか?そんなもの袁家の宝刀黄金律でもないとせんからな。
そもそもおぬしら、交易ができたとして大した量が取引できんのじゃが……教えて絶望させるか、大開拓を成功させて交易を始めてから絶望させるのかどちらのするかの?
「劉備さんもお馬鹿さんですねー。私達が羌族と交易していないと思っているんでしょうかね」
そう、七乃の言う通り吾等も当然じゃが羌族と取引をしておる。
つまり羌族の交易を劉備と競うわけじゃが……吾と勝負して勝てると思っておるんじゃろうか。百歩譲って戦争なら何度かは負けるかもと思うが、こと金に関することなら負けるとか考えられんぞ。札束競争ならの。(札束ではないが……あ、商品券が金代わりに流通しておるから札束と言っていいのかの?もっとも異民族には通用せんがな!)
「あやつらの主力商品は果物じゃからのぉ。距離がある以上、干した物になるが果たして需要があるじゃろうか」
益州は南蛮由来の果物が主力商品じゃ。
商会がまだ益州におった頃は多くは吾が買い占め、もしくは借金返済で徴収しておったが今では商会が撤退したことで取り立てが緩んで余裕ができておる。
あ、ちなみに益州の殆どの債権は入れ違いで入った一般の商人達に売ったりしておるのじゃ。
ついでに諸葛亮達はもちろんじゃが劉備も一般市民が困っているからと商人も一般市民にも関わらず無遠慮に踏み倒す可能性を考えれば商人達があまりにも可哀想なんで優秀な弁護士も商会から派遣しておる吾ってかなりイイヤツじゃよな?
もちろん諸葛亮達と口論なんてすれば多くが負けてしまうじゃろう。なにせチートじゃからな。
しかしの?いくら口で挽回しようとも莫大なマイナスをゼロにすることはできん。多少削ることはできたとしても土台がそもそも奴らの方が圧倒的に不利じゃから微々たるものじゃ。
ただ、侮れんのが劉備のカリスマ(洗脳)じゃの。商人と面会して説得して踏み倒したということが何件か上がっておる。
自分が無力なことを棚上げして正当な権利を持つ者から財産を奪うなんて外道じゃなかろうか。
ん?本人達が頷いたから問題ないじゃと?んなわけなかろうが。上に立つ者が苦しいからと落ち度のない下の者から取り上げてよいものではない。むしろ要らないと言っても払うのが上に立つ者の義務じゃぞ。……でなければ弱みとなって付け込まれるからの。
「それでお嬢様どうするんですか?目論見は失敗しちゃいましたけど」
「うむ、どうするかの……珍しく赤字計上になりそうじゃし……」
劉備達は堪えられずに暴発、北進するにしても東進するにしても対応できるようにこっそり軍備を整えて伏せて、孫策達にも軍資金を送って準備させておったんじゃがなぁ。
更に暴発した場合、華琳ちゃんが連動することを防ぐための種まきなど色々と手を打っておいたんじゃがのぉ。全部無駄になってしもうたの……いや、むしろ華琳ちゃんにこちらの動きを気取られたかもしれんから金以上のものを損失したやもしれんな。
それはともかくどうするかのぉ。
正直、暴発させるだけなら果物を全部枯らせば一発なんじゃが、吾はそういうやり方は好かんしのぉ。戦局に大きく関わるなら吝かではないが、たかが戦争の切っ掛けのために枯らすというのものぉ……何より蜂蜜が手に入らんなるからなぁ。
「んー、せっかく交易路の開拓をしてくれるというんじゃから任せてみるかのぉ。どうせ価格競争に負けて先はないし、そもそもどこまで開拓できるか見ものでもあるしの」
「ある意味自身で茨の道を進んでいるみたいなもんですからねー。その道の先は崖ですしね」
……ん?こう吾に思わせたということは劉備達は最善の選択肢をしたのではなかろうか。
交易路の開拓、それもめっちゃ遠いから年単位で時間がかかるので様子見を決め込むなら時間稼ぎとしてはいいじゃろうな。
問題は袁紹ざまぁに借りた資金でやりくりして集めた兵士(失嘲笑)でブラック企業以上のブラック企業(吾等ほどではない)ばりに開拓従事させても半年も保たんのじゃが。