第二百八十一話
劉備達が開拓するルートがわかったのじゃ。
さすが諸葛亮と鳳統じゃな。一切の無駄がないその選定は伏龍鳳雛の名に恥じぬ働きじゃな。対費用効果、時間効率、人員の配置など無駄がなく、惚れ惚れしそうじゃ。
うちとは大違いじゃな。
うちじゃと対費用効果?なんじゃそれは?時間効率こそ正義なのじゃー!!という感じで金と人員で押し通す感じじゃからのぉ。
ただ……諸葛亮達の計画は吾なら採用せんのぉ。
本人達も自覚あるじゃろうが、はっきり言って余裕がなさ過ぎるのじゃ。
まぁ予算が元々足りないのを無理しておるから仕方ないんじゃが、地図でみただけじゃから正確にはわからんが、地形から察するに事故が起きやすそうな場所が何箇所かあるようにみえるのじゃ。
その事故が起きてしまえば計画が狂う……というレベルではなく破綻になりかねん。
「元々が無理のある計画ですから当然ですわね」
「なら破綻させるのもそう難しくはありませんね。早速破壊工作を……」
魯粛は劉備達の無謀な挑戦にヤムチャな子供……ではなく、ヤンチャな子供を見守る親のような表情を浮かべ、そしてやはりというか孫権の殺意が高過ぎるぞ。なんでこんな子に育ってしまったんじゃ。
「そういえば珍しく砂糖で飴を作ってみたんじゃ。食べんか――「いただきます!」――う、うむ。あ~ん、なのじゃ」
いつもは蜂蜜飴が主じゃから砂糖の飴はあまり作らんからのー。孫権の食いつきも頷けるの。
これで少しは黒さがマシになればいいんじゃが……肌じゃなくて内面のことじゃぞ?
「それで劉備達に関してじゃが、実はこっそり支援しようと思っておる」
「……なるほど、道はいくらあっても困りませんし、できるとわかっているなら脅威にもなりません。むしろこちらで手配しなくていい分だけ手間が省けます」
うむ、魯粛は理解が早くて助かるの。ちなみに孫権は先程まで幸せな顔して飴をコロコロしておったのに今では殺殺(コロコロ)と不機嫌そうにしておる。
「孫権さんやこっち来て座るのじゃ。仕事はええから」
シャキン!
持ち出したるはどう凄いかさっぱりわからんが同じ大きさの金よりも高いと言われておる竹櫛じゃ。
ほーれ、サササッと……うむ、言うだけあってなぜか髪がツヤツヤになっておるな。というか――
「孫権。完璧に、とは言わんがもう少し髪の手入れをした方が良いぞ」
「そんな暇は――」
「無いわけではないじゃろ。最近は吾も自重して新企画は出しておらんから書類も読みやすくなってきたはずじゃ」
「武術の鍛錬もありますから」
確かに七乃や魯粛と違って侍女であり、武官である孫権の忙しさは吾より上かもしれん。武官が少ないのでやめさせるわけにはいかんし……なら侍女を……やめさせるなんて考えた瞬間に真っ黒に染まる孫権を幻視したのでやめておくとしよう。
「しかしもったいない。せっかく孫権は可愛いのにのぉ……ん?孫権?どうしたのじゃ」
「にゃ、にゃんでもないでしゅ?!」
んん?なんか諸葛亮達みたいにカミカミじゃが大丈夫かや?
「それでは劉備さん達を支援するという方向でよろしいですか?」
「うむ。ただし、劉備達に軍備として使わせぬよう注意するようにの」
「心得ております」
魯粛なら大丈夫じゃろう。
おそらくいつもどおり道路の舗装に合わせて作られる街の利権を狙うんじゃろうな。この手法はなかなか優れておっての。なにせ華琳ちゃん達にすら通じるからの。
まぁ華琳ちゃん達の場合はあの手この手で利権を取り返そうと動くのでうっかりすると取り潰されることになる。実際いくつか潰されておる。
「……ところで魯粛も髪……梳かして欲しいのかや?」
先程から孫権の前に並ぶように立っておるが……。
「もちろんです」
にっこり微笑まれると断れぬではないか。
「……ということは七乃もか?」
「むしろ私だけしないという選択肢があるお嬢様は大陸一の外道だと思うんです」
むしろ出遅れた!という表情を浮かべる七乃……髪を梳くのは吝かではないが、皆して並ぶのはやめてたも。せっかく仕事に余裕ができたのにまた忙しくなるぞ~?