第二百八十三話
「ところで恋ちゃんはなぜここに?」
「走ってきた」
「いや、そんな鉄板な返しをしてほしいわけではなくてじゃな」
そもそもそれはどうやって来たへの返しなんじゃが細かいツッコミはいいとして……。
「話がある……て詠が言うから連れてきた」
「あ、確かに賈駆がおる……が……」
「オエェェ」
「……吐いておるの」
乙女の醜態をあまり見るものではないと目を逸らすが吐瀉物の独特な臭いと液体と物体が入り混じったものが地面を叩く音が耳に入ってくる……後で蜂蜜と見舞金でも贈っておくかの。
「恋ちゃん。おぬしの素直さと優しさは美点であり、欠点じゃぞ?優しさとは思いやりを伴っておらねば毒になることが多々ある」
「思いやり?」
「そうじゃ。賈駆の希望を叶えるのは良いがその行動がどういう結果をもたらすのか考えると良いぞ」
「……難しい」
「そう難しく考えんでよい。簡単な話じゃ。恋ちゃんがお腹空いているからとめちゃくちゃ不味いご飯を用意されて素直に喜べるか?」
「……」
「美味しい方が嬉しいじゃろ?」
「……(コクリ)」
「そういうことじゃ。おぬしは他の者達よりも強靭であるから分かりづらいし、ズレが生じてしまうじゃろう。じゃが相手のことを思っての行動で嫌な思いをさせるのも、するのも嫌じゃろ?」
「……(コクリ)」
「ならもう少し相手のことを配慮して行動するのじゃ。良いな?」
「ん。頑張る」
「ただし、敵に配慮する必要はないぞ?悪即斬じゃ」
「それは得意」
じゃろうな。
「で、そろそろ大丈夫かや?」
「突然来たのに悪かったわね」
そういえば賈駆とあったのはいつ以来じゃろ?本当に久しぶりじゃの~……で、吾は原作とか知っておるから賈駆はツンデレが標準装備なことはわかっておるからいいんじゃが……孫権がまた黒化してウォーミングアップなのか知らんが素振りを始めたぞ。
それになんとか気づかせようと賈駆に目で孫権のことを訴える……が、全然通じんぞ?!いや、賈駆ってたしかに微妙に空気読めないというか董卓が絡まなければ……いや、絡んでも察しが悪いところあったがここで発揮せんでもええんじゃぞ?
「それでなんのようかの。懐かしい吾の顔を見に来た、というほど暇じゃかろうし……蜂蜜の催促かや?なら今まで贈った蜂蜜と同量をすぐにでも――」
「やめなさいよ!そんなことしたら城が蜂蜜で埋め尽くされるじゃない!」
「む、量でないならば質か?全く仕方のないやつじゃのぉ。重さで金の百倍の価値がある蜂蜜を――」
「いらない!」
「なんですとー?!」
「唐突に音々のものまねを挟まないでよ。というかさっきまで恋に思いやりとか配慮とか説いてた本人がそれを蔑ろにするってどうなのよ!」
「いや、吾、恋ちゃんみたいに素直でも優しくもないから問題ないじゃろ」
「問題しかないわよ!それに自分で言ってて悲しくないの?!」
まぁ実のところ現在のうちにはツッコミ要員がおらんからちょっと調子に乗ってしまったんじゃ。
うちのツッコミ要員はもっぱら関羽と孫権なんじゃが関羽は劉備討伐(不発)でおらん。そして孫権は――
「今斬るべきかしら、それとも後でゆっくりと……でもどちらにしても呂布が邪魔ね……餌で引き剥がせば……」
――これじゃからなぁ。
「さて、冗談はさておき、本当にどうしたんじゃ?」
「それはその……」
なんじゃ?いつもズバズバッと言うイメージがある賈駆が言い淀むとはよほどのことか。