第二百八十四話
「人を……貸してほしいの」
「……ふぁ?」
「西の交易路を整えろって言われたけど人がいないのよ!街は増えるし、村なんて把握できてないし、盗賊山賊がどっかの台所の虫みたいに湧いて出ていくるし!」
実のところ董卓達は吾等を除けばトップクラスに忙しい奴らじゃ。
孫策のところは董卓と並ぶ忙しさじゃ。南荊州と交州の交易路開拓は順調に進んでいる一方でトラブルも絶えん。
特に交州は一応は漢に属しておるが現地民の帰属意識はほぼないじゃろうな。その証拠にトラブルの原因は現地民と交易商人や南荊州から孫策と共に遠征した兵士達などとの諍いがほとんどじゃ。まぁそもそも軍の移動には諍いが付き纏う話ではあるが。
そして案外暇というか安定しておるのは華琳ちゃんのところじゃな。内陸に押し込まれ、元々繁栄していた地域であることから繁栄というよりも復興に近い形じゃからそんなに手間ではない。何より優秀な文官が多く居るし。
公孫賛は……まぁ普通じゃな。公孫賛の自身が治める幽州と劉虞が治める并州が共同して繁栄しておるし、北に烏桓という敵がおるにはおるが逆に結束する理由となっておるためマイナスよりもプラスな気がするしの。それに吾が援助しておるから問題はないはずじゃ。
劉備はデスマーチ中じゃが、マジの意味でデスマーチじゃから忙しいというには少し違うじゃろ。
北郷?なんか一生懸命劉備達のご機嫌取りを兼ねて食料輸送などを頑張っておるし、内政自体も頑張っておるようじゃが資金がない上に劉備達との友好関係維持のために出費が嵩んでおるから成果を上げられないようじゃな。
「だから人を貸して――」
「無理じゃな」
「無理ですねー」
「無理です」
「無理ですわね」
「無理」
「そんなに息を合わせなくても……って恋!なんで貴女もそっち側なのよ!」
賈駆の言葉を聞いた恋ちゃんは首をフルフルと振って――
「だって……月と詠より寝てない」
「え?」
「恋ちゃんはよく知っておるのぉ~」
しかし、それならなぜ賈駆を連れてきたんじゃ?先に説明すればよかろうに。
「美味しいもの食べれる」
食い物に負けたらしい。
まさか完璧な大義名分を用意するとは……恋ちゃんもやるのぉ。
「賈駆よ。おぬしは一日どれだけ寝ておる?」
「特に立て込んでる時は徹夜するけど……大体四時間ぐらい……かしら」
「そのぐらいで吾等を頼ろうなどと片腹痛いわ!おぬしに本当の地獄を見せてやるわ!ついてくるのじゃ!」
というわけで賈駆を地獄巡りを始めたのじゃ。
今の時間ならば司馬家残党(帝と共に温泉地へ行くことが叶わなかった者達)がいつもの賽の河原の石積みが如き苦業を熟しておるはずで……まさしくその光景が目の前に現れた。わかっておったが辟易とする光景じゃのぉ。
「いや、もう、いやだ。帰りたい……あれ、私の帰る場所ってどこだっけ?」
「見える!見えるぞ!これが終わったら眠っている俺の姿が?!」
「数字が……文字が……踊ってる」
「おお!勝手に数字が!判が勝手に押されていく?!……あ、自分でやってたのか」
「ねぇ誰か僕を知りませんか?さっきから僕が見当たらなくて……」
うむ、いい感じに病んでおるの。
「……何よ……これ……」
「ん?もちろん彼らはこの国を支える有志達(生贄)じゃ。しっかし、たかが三徹三連勤(三日連続徹夜して三時間休みが一連勤)程度でこのような……ん?五連勤じゃったか?」
「…………」
「それと勘違いするでないぞ。吾等は今休みなだけで明日には吾等もあれの仲間入りじゃ」
ちょっと遊び過ぎて仕事が溜まってしもうたからの。
「ですねー。もっとも今更その程度で摩耗するほど弱くありませんけどー」
「まだこの程度なら大丈夫でしょう
「この程度って……書簡が……壁になってるじゃない」
「いや、壁にはなっておらんじゃろ。ほれ、天井までついておらんぞ」
「そういえば天井までどうやって敷き詰めてるんでしょうね?」
……そういえばそうじゃな?仕事中はそんなところまで気にしておらんから気づかんかったわ。
「……で、賈駆。なんか言いたいことはあるか?」
「………………」
「ほ?そうかそうかせっかく来たから手伝って――」
「邪魔したわね!!」