第二百八十九話
「さすがお嬢様ですねぇ。曹操さんに手紙と贈り物だけであの陳羣さんを引き抜くなんて」
「そうじゃろうそうじゃろう」
陳羣は内政の手腕や人材発掘に優れておる人物で、特筆すべきは厳格なところで内部の規律を保つ役割を担っておる。
おそらく長期に渡って公孫賛へ遣わすのに能力と引き抜きや裏切りを警戒して忠誠心を重視しての採用じゃろうな。
……ほんの少し口うるさいからちょっとの間だけというのもあるじゃろうがの。華琳ちゃんは厳格なイメージがあるが、割と欲望に忠実なところがあるからのぉ。よく小言を言われておると報告にあるからの。ちょっとだけ自由にしたいという思いがどこかにあるはずじゃ。
しかし、それは規律の緩みになる可能性があるんじゃがな。
まぁ華琳ちゃん達がそう簡単崩れるとは思えんが、多少の乱れは生じるじゃろう。
適度に足を引っ張らんと華琳ちゃんは発展させ過ぎて叛く可能性が高いからの。
領土が反袁術連合の時は今より規模が小さかった(主に裏商会)のに大変じゃったというに今の状態で戦争なんて……想像ができんぞ。
……というか華琳ちゃんのところだけ普通の睡眠時間が保てているなんて認めないのじゃ!(ただの嫉妬である)
私怨はともかくとして、烏桓討伐を華琳ちゃんに委託するにあたって公孫賛、劉虞には討伐よりも防衛重視に切り替えたことで負担は軽減しておるようじゃ。
もっともこのやり方では大きい街は守れても小さい村などは守り切れんから華琳ちゃんに期待じゃな。
「でもさすがですね。曹操さん、後数日もしないうちに軍備を整えて出撃準備を終えるそうですよ」
「まるで最初から誰かに戦争を仕掛けるために準備をしていたようですね」
七乃の言葉に疑わしさを隠さずにつぶやく孫権……まぁ孫権の言葉が真実じゃろうな。
初動で何処を狙うかはわからぬが最終目標は吾等で間違いないじゃろう。
もっとも吾と張り合うにはまだまだ物資が足りんがの。吾を討とうとするなら戦争が始まってしまえば吾は帝を引き連れて宛に引きこもるので、まずは汜水関、虎牢関、そして洛陽を落として進まねばならぬからの。
他と戦うのとは規模が違う戦争になるじゃろうから軍備はどれだけ整えても不足はない……んじゃが、今回のでだいぶ消費させたかの。
吾等が用意するとは言っても現物を用意もするが全てではなく、代金の支払いを吾等がしたりとする形をとっておる。
そして華琳ちゃんには最初は支度金を渡しておるが軍需物資は兵糧のみ融通しておる。つまり武具の類は自前で用意しておる状態じゃ。
「実のところこれが一番の狙いなんじゃがの」
軍需物資というのは集めるのに苦労するんじゃよ。
なぜならそれは警戒を呼ぶからじゃ。
わかりやすく現代風に言えば、ホームセンターで爆弾になる材料を大量購入すればおまわりさんに疑われる。それと同じで武具を必要以上に揃えようとすれば謀反を疑われるわけじゃ。
実際弩なんぞは吾等が規制する前から規制されておるからの。