第二百九十二話
「李典~!李典はおるか~!」
「ほいな。こっちにおるで~!ちょっと手ぇ離せんからこっち来てや」
李典の部屋の戸をノックなどせずにバーンッ!と豪快に開けて叫んでみたが、どうやら李典の声は奥の開発室から聞こえてきたのじゃ……まぁわかっておったがな。だからこそ問答無用で戸を開けたんじゃからの。さすがにそこまで無神経じゃないぞ?ちなみに李典の部屋じゃが部屋というか倉庫みたいに……いや、もう立派な倉庫じゃな……になっておるしのー。
というかこの部屋、実のところ結構注意して歩かんといかんのじゃ。
この前、うっかり何かにスカートを引っ掛けてしまっての?そしたら突然横から丸太が飛んできて吾に直撃!男の娘らしからぬ、ぐぼへらぬっ、とわけのわからん声を漏らしながら吹き飛ばされてしまったのじゃ。
いやー、あれは痛かったぞ。痛くてその後しばらく声が出せぬまま地面をゴロゴロ転がって――更に物を引っ掛けて鉄の棒が倒れてきて下敷きになったからの。
その時は七乃が共におったんじゃが……まぁうん、想像を絶するブチギレ具合での?吾の介抱を一通りした後――「二つの無駄な脂肪を切り落としてから牛で曳き廻してそれから……」と、どこから取り出したのかでっかい包丁?剣?を明かり用の火で熱しながら呟いておった。
ちなみに李典本人は目の前におったから恐怖で顔が引き攣り、現代なら冗談でガクガクブルブルなどというがそれを本当の意味で見事に体現しておったぞ。
いやー、まぁ、七乃の気持ちは嬉しいし、わかっておるんじゃよ。なにせ、実のところ形は違えど、この手のエピソードはどっかの星戦争と同じぐらい重ねられておるからの。
つまり李典のものぐささと吾の不注意が重なってできた不幸の協奏曲(コンチェルト)じゃな。何一つ感動が生み出されぬがの……いや、李典は許された時に感動しておるかもしれんか?
「よし、今回は大丈夫じゃったな」
「あはは……一応司馬通が整理してくれてるから大丈夫なはずやで」
「……さては司馬通にも被害が出ておるな?」
「ギクッ」
全く、困ったやつじゃのぉ。結果的には管理者が現れたのなら別にいいんじゃがの。
「と、ところで袁術様は何かようがあってここに来たんちゃうんか?」
「話を誤魔化しておるのは百も承知じゃが仕方ないから乗ってやるとするかの」
「いや、それは心の内に秘めておいて欲しいんやけど……」
「誤魔化されてやるのに贅沢な奴じゃのぉ~。さて、本題なんじゃが――」
烏桓と戦う華琳ちゃん……正確にいえば秋ちゃんじゃが……に何か喜ばれる物はないかと伝えると――
「んー……有効なのは無いことは無いんやけど……さすがに最新兵器を送るわけには――」
「いかんな」
「となると旧兵器の在庫処分と……あ!あれがいいかもしれん!ちょっと待っててな!」
そう言って李典は部屋(倉庫)に出ていった……結局そっちに行くんじゃな。
暫し待つと李典が帰ってきた。その手には……壺?それにえらい厳重に封がされておるの。
「あ、絶対ここで開けちゃ駄――「秘技・即時開封!」――?!?!?!?!」
秘技・即時開封とは減らぬ仕事の合間に重要書類などが混じり、厳重に封をされておる物を片手間で素早く開封することで身につく必殺技――――って、くさ?!痛い!鼻が痛い!意識が遠のくほど臭いのに臭さで覚醒させられるじゃと?!無限地獄とはこのことかや?!
「んんんんんんんん!!!!」
李典が素早く吾の持つ壺を奪い取り、再び厳重に……いや、それ以上の封を施していく。
「ハァハァ……あ、あかん。まだ臭い……」
「い、いったいなんだったんじゃ?あれは」
「あれは司馬通が作った輸送隊の護身用武器や」
「……武器?」
「そうや、あれほど臭ければ獣は寄ってこんし、人間も撃退できるやろ?」
「そう、じゃな」
「しかもあれ、食べられるから無駄にならん……らしい」
「……」
まさかあの缶詰の親戚か?!いや、食べられるだけで食べれんじゃろ?!
「これで騎馬対策もばっちりや」
…………これ送って華琳ちゃんに怒られんじゃろうか?……いや、怒られるな。