第二百九十四話
「そういえばアレの季節じゃな」
「あれ……ああ、あれですか。毎年恒例ですけど忙しすぎて忘れちゃってましたねー」
「うむ、重要事項なんじゃが結局毎年過ぎてから気づくからのぉ。最近の採用した奴らはまだ受けておらんじゃろ?」
「それでしたら司馬家の方々もですねー。まぁあの人達は問題ないでしょうけど……」
「ああ、修羅場中じゃったから強引に投入したから受けておらんか。しかし効率化のために一応受けさせておくか」
いかんなぁー。余裕がないと改善をすることもできんようになる。だから仕事が増える。悪循環じゃな。
「あ、帝も受けておくんじゃぞ?」
「え?朕?そもなんの話なんです?」
「能力試験じゃな」
元々宛太守の頃から行っておるもので、あの頃は本当に人がおらんかったからのぉ。少しでも効率化させないといかんかったからのぉ。
そう考えると宛太守の頃は人がおらんでも仕事は今の比にならんほど少なかった(当時は欠片もそう思わんかったがな)んじゃな。改善のための検定すら行えぬほど切迫しておったからのぉ。
(帝を試験で力を測ろうなんて……袁術は本当に朕を帝扱いしないですよね。それに周りはそんな朕の扱いも気にせんし……まぁこれはこれで気に入っている朕も変人なんだろうけど。それより試験ってどんなのだろう不安)
「あ、不安みたいじゃが大丈夫じゃ。いつもどおり仕事をしてもらうだけじゃからの」
「それはそれで気が滅入るんですけど」
「そして決められた仕事が終わるまでの時間を計るんじゃが、それが短い仕事が今度から多く振り分けられるということになるんじゃ」
「……それってつまり延々と同じ仕事が積み上げられていくってことでは?」
「そうとも言うの」
「効率的なのは認めますけど……死にませんか?主に精神が」
「それでも全体で行えば二割は仕事が減るはずじゃぞ?」
「ぜひしましょう。すぐしましょう。勅命いります?なんだったら宝物庫を開いてもいいですよ」
帝が必死過ぎるのじゃ。
ちなみに意識調査で集めた情報では欲しいものは、休み、ゆっくりとした食事、寝る時間、理解ある上司、働き者の部下、某蜂蜜を殺してくれる暗殺者、書類を燃やす火などなどがあり、百ほど下に金とあるぐらいには金はあまり必要ないようじゃぞ。
「なら優秀な者には帝直筆の表彰状でも贈ってみるか?」
「そんなものでいいのか」
「普通の価値観なら家宝級、数世代は自慢できるぐらいにはあるんじゃなかろうか」
知らんけど。
吾なら、そんなもんいらんから休みくれ!むしろ試験中寝る!とか言っていそうじゃがな。
「そ、そうか。ならちょっと頑張って書いてみるか」
「それなら五枚ぐらい頼むかの」
たまには帝っぽい仕事も乙なもんじゃろう。
本来なら目の周りを真っ青にして書類とにらめっこする帝なんておるはずないしの。
ちなみに何気に帝は文官達から人気があったりする。
主に『理不尽に仕事を押し付けてこない』、『無茶振りが少ない』、『頑張っている姿勢が共感が持てる』という内容じゃ……これ、絶対帝の評価じゃないじゃろ。まぁ実際文官達は当人が帝であることを知らないのだから仕方ないのじゃがな。
いやー、さすがに吾も帝を公にこき使うことはできんからの。