第二百九十六話
なんか結局あの後カツ丼十杯とお新香を切ることなく丸々一つ(白菜ね)と肉まん五個に酸辣湯(サンラータン)を五杯、杏仁豆腐を六個食べおったぞ。
帝、本格的にフードファイター説、あると思うんじゃ。
今の所体型は普通じゃがぽっちゃり系への進化が近い気がする……まぁこの世界でそんな体型になるのかという疑問もあるが。
見ておるだけで胸焼けしそうなオヤツ(?!)を終えて、またいつものように仕事に戻ろうとしたところ――
「お届け物やで~」
と気の抜けた声と共に現れたのは李典じゃった。
開発所から出てくるなんて珍しいの。
「司馬通が新たに開発したから届けにきたで~」
「それならなぜ本人が持ってこんのじゃ?」
「味覚障害と嗅覚障害がひどくて動く気にならんそうや」
それって新型コロナ……いや、もしそうなら古代型コロナとかになるんじゃろうか?……とボケは置いておくとして――
「すっごく嫌な予感がするんじゃが……その手に持っておるのは……入れ物の形状から察するに練り香水じゃよな?」
「そうみたいやな。はい、確かに渡したで?ほなな――『ガシッ』――」
「逃さぬぞ。今の反応、絶対これがやばいこと知っておるな?!」
「そ、そんなことあらへんで?ウチはこれでも開発に忙しいんや――」
「ほう、吾よりも忙しい、と?」
「いや、さすがにそれほどではないけど……」
「なら一緒に司馬通の成果を確認しようではないか」
「できたら遠慮したいなーなんて……」
「ふむ、そうか……なら仕方ないのぉ」
「じゃあ――「なら実験台になって――」――喜んでお供させていただきます!」
始めからそう言えばいいんじゃよ。
しっかし、嫌な予感が止まらんのぉ。
「じゃ、早速開けてみよかー」
「ぬ?!」
「大丈夫やで。開けるだけなら問題で、開けるだけなら」
本当じゃろうな。もし万が一違ったら吾の仕事全部押し付けてやるから覚悟しておくんじゃぞ。
さて、オープン!……ふむ、確かに特に何もなかったの。ついでに言えば練り香水の割には臭いがせんぞ?
「ただし、絶対触ったらあかんで?フリやないで?ウチ、責任とらんからな?というか逃げるで」
「なんじゃ。触ったらいかんって」
「その練り香水、触ったら成分が気化してこの前の激臭瓶詰めの臭いが出てまうで」
「マジか?!」
なんじゃその技術の無駄遣いは?!
「こんなもん何に使うんじゃ?」
「拷問用と気付け薬らしいで」
まぁ気付け薬は現代までアンモニアが使われておるからわからんでもないが拷問用って……拷問する側も拷問じゃなかろうか。
「ちなみに夏になると自然と気化してしまうらしいで」
「危険物すぎるじゃろ?!氷室にでも入れておけと?使い道が微妙な割には保存が面倒過ぎるぞ!」
「ウチに苦情言われても……司馬通に言ってや」
「……ちょっと待つんじゃ。まさか嗅覚と味覚障害というのは……」
「これの臭いをもろに受けたみたいやで。あとうっかり口に入ってもうたらしい」
自業自得過ぎるのじゃ。