第二百九十九話
「だがこのガチャッポンとやらに本当に一等が入っているのか?!これだけ引いて誰一人引いた者がおらんではないか!」
この話、まだ引っ張るのかや?
「製作者、企画者を疑うのはもっともではあるが相手が悪いぞ?興が乗りすぎたゆえの過ちということで目を瞑ってやるからそのあたりにしておけ」
博打というのは人を変えさせる力があるからのぉ。
それに身体と精神の疲労も重ねると爆発してもやむなしじゃろ?むしろ血圧が上がって卒中や心筋梗塞までありえるぞ……まぁ博打に手を出したのは自業自得じゃがの。自制心が足らんのぉ。(博打に手を出してしまうほど追い込んだのは棚上げである)
さすがにこれ以上の暴言は処罰対象じゃぞ?というか既に吾が許しても七乃や孫権が許さぬ可能性があるが……そこまでは面倒は見んぞ。強く生きるんじゃぞ。
吾の言葉に多くの者は正気を取り戻したようで冷や汗を流し始め、周囲の顔色を伺い始めた。
実質的指導者に喧嘩売っておるんじゃからそれが当然の反応じゃよな。吾の一言でここにおる者達は全員リアル首を飛ばすことができるんじゃからの。
「だが――」
「そのへんでやめとけって。相手が誰かわかってるだろ」
まだ言葉を続けようとした男を近くにいた男が止めに入った……が、その言い方、まるで吾が悪いみたいなんじゃが?
「ハァ……それほどに言うなら中身を確認――」
「……出た。一等」
「おお!さすが恋殿!天下一の強運なのです!」
「でもはずれ……」
……なんで恋ちゃんがここにおるかは孫権や周泰の鍛錬のために度々派遣してもらっておるからわかるんじゃが、なんでガチャッポンを引いて……ああ、あれか、五等の一年間食堂食べ放題狙いか。恋ちゃんらしいのぉ。
しかし天下一の強運は吾じゃと思う……いや劉備か北郷も捨てがたいか。劉備は市民だった分際で劉家を名乗っていまだに無事じゃし、北郷は吾と敵対して生き残っておるんじゃから随分と強運じゃよな。どちらも吾が泳がしているに過ぎんが。
それに恋ちゃんは果たして強運と言えるのか?一等を引いたが一番必要ないものを引いたんじゃぞ。
そもそも恋ちゃん達はここでは食堂食べ放題じゃろうに……言葉に惹かれたのかの。
「……で、おぬしは何か言いたいことがあるかの?」
「申し訳ありませんでしたっ!!」
クレームをつけておった男は華麗なる土下座を繰り出した。
「うむうむ、素直に謝れるのは良いことじゃな。では書類倍の刑で許してやろう」
「――ッ……ありがたき幸せ」
うむ、そこで素直に受け入れてもらえて嬉しいぞ。
なんかね……ちょっと離れておる柱の裏からどす黒いオーラが発せられておるんじゃよ。多分これ、吾が何もせず済ませばこやつの命がなかったと思うんじゃ。
こんなことで大事な部下をなくすのは悲しいからの……書類が吾に返ってくるし。
「それにしても皆どっぷりハマりすぎじゃろ」
恋ちゃんの一等を引いた宣言によって周りにorzが大量生産されたのじゃ。一種の芸術作品のように見えなくもないの。
ある者は最終賞狙いで回し、ある者はラストワン賞を目指して更に回し……こやつら大丈夫じゃろうか?
ある者は勇ましく恋ちゃんから一等を買い取ろうとしておるが音々がキックを見舞って追っ払っておるの。いや、それだけの買取金額なら実質食堂食べ放題できるんじゃが?
なんて思っておると恋ちゃんが吾の元にやってきたぞ。
「……これ」
「うむ、一等じゃな。しかしおぬしはここの者ではないし一日休暇というのはちょっと管轄違いなんじゃが」
もちろん董卓達にお願い(脅迫)ぐらいはできるが……恋ちゃんがそんなこと望んではおらんじゃろう。
「人、貸してほしい」
「ほむ?」
別に人を貸すぐらいはできなくはないが問題は――
「月達、大変そう」
やはり董卓達のためか。
しかし、そうなると文官を派遣する必要があるの。
「だめ?」
「うむ、任せておくのじゃ」
だからそんな切なそうな目をするでない。
恋ちゃんにそんなことされると断れぬのじゃ~~~。