第三百話
なんか凄い異動願い続々と出されておるんじゃが……おかしいのぉ?限界はギリギリ見極めておるし、洗脳――ゴホン、教育も施しておるというのに……まさかガチャッポンによって不満が解放されたのか?!と思って調べてみたんじゃが、ある意味そうであり、ある意味違ったのじゃ。
きっかけはガチャッポンで違いないのじゃが、正確には恋ちゃんが一等を引いて董卓達を助けるために人を貸して欲しいと頼まれ、断れずに人を派遣したのが問題となったんじゃよ。
派遣した者曰く――
「俺は英雄になった」
「特に目立った才などなく、どこにでもいる平凡な俺が外(シャバ)では英雄になれたんだ」
「最初はどんな地獄が待ってるかと恐々としてたが、何のことはない。仕事量は半分程度でどれもこれもそれほど難しいものではないものばかり」
「定時以前に午前中で帰れる恐怖。仕事をせずに食べれる落ち着かない食事。何もしないという贅沢の虚無感。皆働いているのに自分だけ働かないという罪悪感と背徳感。」
「しばらくは余所者に任せられる仕事が少ないのか、それともまだ俺の実力を測っているのかと考えて誤魔化していたんだ」
「だが違ったんだ」
「試されているんじゃなかった。信用されなかったんじゃなかった。ただ……俺が優れていたんだ――」
「なんてことはない。いや、それも多少はあるかもだが、気づいたんだ……外が特別なんじゃない。――――――――ここが地獄なんだって」
などと言ったらしい。
その発言に、よく躾けられた者達は鼻で笑って日常(デスク)に戻ったそうなんじゃが極一部の躾が足りぬ者達には救いの光に見えたらしく……目の前の現状がある。
「気持ちはわからんでもないがの」
現代でもスローライフに憧れるのは仕事仕事で思考停止気味の人間がほとんどじゃからの。
まぁ実際にスローライフが実現してしまうと仕事ではないにしても結局は趣味という労力を割くようになってしまうんじゃがな。つまり心持ちの違いじゃろ。(迷言)
「でもお馬鹿さんですよねー。どうせ異動しても仕事量が減るわけないのに」
「そうじゃな」
七乃の言う通り……いや、むしろ増えるじゃろうな。
なにせ仕事を運ぶ手間が増えるし、現地の仕事も増えるからの。
なぜかこの会話が漏れ、そしてその派遣した男にも耳に入った。
そしてこう言ったらしい――
「ここが地獄なんじゃない。ここには悪鬼が――」
それからその男の姿を見たものは誰もいないという。
いや、殺してはおらんぞ?
殺したら仕事ができんじゃろ。