第三百一話
「秋蘭から報告は受けていたけど……圧巻ね」
曹操自身が政庁に不在でも機能不全を起こさないように引き継ぎを終わらせ、烏桓の討伐に乗り出した。
そのため少々夏侯淵達が派遣されてから時期がずれることとなった。
もっとも蛮族相手に州牧である曹操自ら出撃するというのは異例のことではある。
そして曹操が圧巻されているのは烏桓対策用に運ばれている物資を運んでいる光景であった。
「まさか騎馬への対策でこんなものを用意するなんて……馬鹿げてます。力技どころじゃないですよ」
元々曹操の意見に異を唱えることが少ない荀彧だが心底同意しつつ目の前の物体に呆れ返っていた。
その物体とは、一言で言い表すとするなら巨大な箱もしくは巨大な建造物である。
「まさか井闌みたいな荷馬車を作るなんて……しかもこんな規模で」
前線都市に物資を運ぶ商人や部隊が烏桓に襲われることが多発した……というより元々略奪が目的なのでむしろ大量の物資を運ぶことが目につくのは当然であり、襲うのもまた当然だ。
それを全て守るのは難しいということで開発されたのが平たく言うと超大型貨物輸送車である。
動力は牛であるため屋根や装甲に金属を使うことはできなかったが、木材を使用。これにより攻城兵器級の床弩や破城槌でもないと破壊できないが烏桓がそんなものを用意するわけもない。
唯一ある対抗策としては火攻めであるが、木材の表面には李典特製の防火塗料を施しているので烏桓の戦術を封じている。
「さすがにこれを量産するなんてことはしなかったみたいね」
理由は運搬能力が使った牛の数から考えるとあまりにも効率が悪く、李典特製防火塗料が希少な樹液が含まれていることから大量生産が難しいこと、後は牛が興奮してうっかり暴走した時の被害が大きいことなど色々あるが一番の理由はその巨体故に城に格納ができないことであったりする。
さすがに多大な資金と資源を野ざらしにするという選択はない。何より車輪や装甲の整備が必要なのだが……街に入らないのだ!
ちなみに作った時は何もかもが規格外の洛陽だったため気づくことがなかったのだ!残念。
「それにあっちも色々とおかしいわね」
曹操の視線の先には近づいて全容が見え始めた前線都市があった。
全容とは言っても見えているのは堀もなく、返しがあるわけでもないただの一般的な城壁である……が――
「秋蘭の話じゃあの城壁が三層もあるって言ってたけど……無駄よね。こんな重要拠点でもないただの前線の拠点に」
「全くです」
一応、その重厚な都市だからこそ一般の商人も訪れようと思え、派遣されている兵士達も安心して休息を取ることができるというメリットはあるが、対費用効果を考えると効率が悪い。
ちなみにその無駄と言われている都市は全部で十ヶ所以上存在する。
「本当に……どこからそんな財源が出てくるのかしら」
「……蜂蜜からでは?」
「ありえない……と言い切れないわね」
いや、もちろん情報の重要性を知る二人は違うことはわかっている。だが、袁術の黄金律は二人の聡明な頭脳を持ってしても理解できる代物でえはなかったのだ。
「……頑張って蛮族達をとっとと退治しないといけないわね」
「はい」
「万が一にも負けは認められないわ」
「はい」
「あんな物(最臭兵器)に頼らないわよ!」
「はいっ!」
妙なトラウマを植え付けたようである。
劇物の取り扱いは気をつけよう!