第三百三話
「華琳ちゃんは元気じゃの~」
前線都市に到着して早々に仕事の山が出迎え、余裕なんてあろうはずがない……はずなんじゃが、なぜか吾の下にクレームの手紙が9,609,000文字も書かれておったのじゃ。……いや、さすがに冗談じゃぞ?(ちなみにこの文字数はギネス記録の最長編小説のものです)
まぁそれほどの長さではないにしてもラノベ十冊分ぐらいはある苦情が書かれておるだけでも十分長いがの!
中身は吾の無策への罵倒が七割、改善案が一割、物資の要望一割、関羽を寄越せが一割……うん、多分最後の一割が本命じゃろうな。
しかし関羽は軍において紀霊と並ぶ存在じゃからのぉ。そう安々と派遣するわけにはいかん。貞操の危機でもあるしの。万が一があった場合貴重なツッコミ要員が出奔しかねんし却下じゃな。
その代わり吾が行ってやろう!と返事すると超高速便で『だが断る!』を遠回しに何万文字も使って拒否られたのじゃ……いや、吾も別に本気で行こうと思っとったわけではないんじゃが……それほど暇ではないしの……でもそこまで拒否せんでもいいじゃろ。
仕返しに特に意味もなく兵器兼観賞用として飼っておった戦象を送ってやるのじゃ。扱いに困るがよい。
戦象はこの時代では最強と言ってもよいが、食費がバカ高い上に馬よりは足が遅い関係上烏桓相手にはあまり役に立たんじゃろう。
そして何より象は南側の生き物じゃから漢の最北ではどの程度活動できるか、それに戦象は簡単に制御できるというわけではなく、暴走することもあるからのぉ……どちらにしろ大変じゃろうなぁ。
「それなら帝さんから貸下げにしたらいい感じになると思いますよー」
さすが七乃じゃ。吾以上の策士じゃの。
戦象を吾からではなく、帝から貸下げる形で送るとなると華琳ちゃんは必死に使えない戦象を面倒見なければならんの。
危なかったのぉ。もしかするとただの食料扱いされるところであったな。というか華琳ちゃんなら間違いなくしたじゃろうな。
ところで……。
「象の肉って美味いんじゃろうか?」
「そういえば随分手間が掛かるんで食材にしようとは考えてませんでした。輸入しますか?」
「んー、食材にするにしても輸送されてからすぐだと体調が悪くて不味そうじゃし、だからと言って面倒を見るのものぉ。もう少し暇になってからにするかの」
「ですねー。輸入するのに一山ぐらい書類増えますもんね」
たかが象の輸入でなぜ吾等に仕事が回ってくるかは甚だ疑問なんじゃが……まぁ迷い猫の捜索依頼が届いたことがあるぐらいじゃから今更といえば今更ではあるが。
……あれ、周泰が紛れ込ませたんじゃないかと疑っておるんじゃが、もしそうならあやつ以上の探索能力があるものはおらんから無理じゃと思うぞ。
「……そうじゃ。蝗の佃煮じゃ!」
「え、なんですか。その聞くからに不味そうなもの」
いやいや、中国は昔からゲテモノ好きじゃろ。蝗の佃煮ぐらい平気じゃろ……ではなくてじゃの。
「蝗害対策に蝗を食料にする方法を全土に広げるのじゃ。そうすれば蝗害が減る……かもしれんじゃろ」
「んー、確かに……でも最近は皆さん潤ってますからそんな変わり種食べますかねぇ?」
「逆に珍品として需要があるかもしれんじゃろ」
「わかりました。じゃあ食品開発部に出しときますね」
「うむ、ちなみに吾は試食はいらんと言っといてたも」
「も~、お嬢様ったら我儘なんだから~」
そしてまた仕事を増やしたという事実を後で気づいたのじゃ。