第三百七話
隠し扉の向こうには楽園が……あるわけがないのじゃ。
むしろ遊びの時間の終わりの訪れで軽く鬱になりそうな感じじゃ。
せっかくの暇つぶしだったんじゃかのぉ。
……ま、それは置いておくとして、何が出るかな?何が出るかな?
「と期待させといてこれか?!」
そこには幾つもの問とまるでキーボードのように文字が表記された押せそうなボタンが並べられておる……随分と時代にそぐわないものが作られておる。
古代中国にこんなもんがあるかい!李典ですら……いや、まぁ李典なら作れるじゃろうが……む?そういえば針一本でこれだけ自動で動くカラクリ仕掛けの隠し扉も時代にそぐわぬの。
昔の皇帝、どんだけ金かけたんじゃ?それにこんなカラクリが開発できるぐらいならもうちょっと庶民にはともかく上流階級になんらかの影響がありそうなもんじゃが?あ、もしかして皇族が独占……したようにも見えんの~……もしかしてやっちゃったのか?殺っちゃったのかや?!秘密や技術が漏れぬように口封じ(もっともお手軽)をされたのかもしれんの。
人間の命がつくづく軽いのぉ。
李典はこの時代に生まれて幸せじゃな。
吾にしろ華琳ちゃんにしろその才能を摘み取るなんてことをせんからの……まぁそれ以上の重責を背負わされておる可能性はあるがな。
それはともかくとして――
「これは面倒じゃのぉ。吾は半分ほどしかわからんぞ」
「……皇族の秘をなぜそれほど知っておるのだ」
「え?今更じゃろ。のぉ?」
吾の言葉に七乃達は頷く。
「ええ、このあたりは十常侍さん達から巻き上――ゴホン、差し押さえた書物の中に詳細が書かれているものがありましたからねぇ」
十常侍達は自分達の権力が皇帝の権威で保たれておるという自覚があったのでこういう皇族の記録は大事にしておったんじゃよ。まるで価値があるようにみせることで自分達はすごいんだぞ!と言い張るわけじゃ。虎の威を借る溝鼠というやつじゃの。
もっとも吾には通じんがの。蜂蜜以上の権威なんて存在するわけなかろう。
一応七乃と共に読んで暇つぶしにはなったがな。
そういえば魯粛も喜々として読んでおったの。編集して売るとかなんとか言っておったような?どうでもいいことじゃったからスルーしておったがもしかして止めた方がいいのじゃろうか。あとで確認しておくかの。
もしかすると袁家に問い合わせればもっとあるかもしれんの。名門袁家は伊達じゃないはずじゃ。
「付け加えるとここのことを調べる上で皇族方の情報を集めるのは当然のことかと」
魯粛の言う通りじゃの。
「むう……ん?それの回答は違うぞ。光武帝は――」
「ふむふむ、やはり皇族に伝わるものと他では違うものもあるのぉ」
十常侍とか都合が悪い事を編集しておっても不思議ではないのじゃ。自己顕示欲もじゃが自己保身も人十倍以上あったからのぉ。
ポシポシとキーボードもどきを押して入力していき――全問入力が終えるとガチャンッという音がまた聞こえたと思うとちょうどいい位置に引き手が出現したのじゃ。
一体どういう仕掛けをしておったんじゃろうな。
「どうやら全問正解のようじゃの。じゃあまた頼むぞ、孫権」
「ハッ」
さて、今度こそは何か変わったもの……いや、今回のも変わったものではあったがもっと別の何かが出てくれたら嬉しいんじゃが。
引き手を引くとゴゴゴゴゴゴゴゴッという無駄な演出音っぽいものが聞こえ、引いた孫権がビクッと反応したのはちょっと可愛いと思ったのは秘密じゃ。
孫権が周囲の安全確認を済ませて中に入ると――
「エー……コレはないじゃろ」
『力が欲しいか……力が欲しいか!!力が欲しいのならくれて――え?!』
「久しいのぉ。また会うとは思わんかったぞ――――
太平要術の書よ」