第三百十話
「その前にちゃんとした宝物を探すとするかのぉ」
「ん?宝物とはこの本ではないのか」
「確かにこの駄本が宝に相応しいと思う者は多く居るじゃろうが、皇帝がこんな本を手に入れた場合、代々受け継ぐようにするじゃろうし、それに黄巾の乱の頃にはここには何もなかったことになる」
「そういえば先の乱はこれが切っ掛けと言っていたな」
「うむ。そしてこの駄本がここにあったと仮定した場合、誰かがここから持ち出したことになるじゃろ?そして宮殿から多大な苦労を費やして持ち出した物であろうこの駄本が黄巾の首魁の手に渡る確率は如何ほどじゃろうな」
「いくら今ほど安定してはいないあの頃とは言っても宮殿……しかも完全に皇帝の私的区域に入ってこの隠し扉を開いて持ち出すなど不可能だ」
そうじゃろうな。
そもそも十常侍ほどの圧倒的権力を持つ者達は『盗む』必要はない。堂々と下賜させればいいだけなんじゃからな。……下賜の使い方が違うが、まぁこういうことは結構あるので気にしたらダメなやつじゃな。ハゲるか物理的に首が飛ぶぞ
「と考えるとこの駄本そのものが何らかの移動方法を有していて、今回はたまたま……まぁ十中八九、帝目的にこの部屋に辿り着いたと考えるのが自然じゃ」
「つまりここにあったのは朕目当ての偶然で、本当は別の物がある?」
「と吾は考えておる」
なんて話をしておったら――
「お嬢様、この本が置いてあった台に色々書かれてますよー」
という七乃の声が聞こえ、見てみると……確かに書かれておるな。
駄本に気を取られすぎて目に入らなかったの。
「え~っと何々――」
『烏獲之力を有して勇猛果敢、有智高才にして頭脳明晰、皆を惹きつける国色天香、臣民を包み込む功徳無量!つまり十全十美!完全無欠!全知全能!の光武帝劉秀がここに至宝を遺す』
「……こう言ってはなんじゃが……痛々しいやつじゃのぉ。初代様は」
「さすがお嬢様です。相手が後漢の祖である光武帝相手でも言葉を飾らぬ姿勢はまさに唯我独尊!天涯孤独!」
「ぬはははは!もっと褒めてたも褒めてたも!」
「おぬしらは本当に誰が相手でも不遜だな」
「おっと!帝も褒めてくれるのかや?!」
「褒めてないぞ!」
「も~、照れんでもいいんじゃぞ?」
「照れてもおらん!」
そうか、それは残念じゃのぉ。
「さて、あまりに痛々しいやつの至宝じゃからあまり期待できんが……何が出てくるんじゃろうなぁ。これで自分のミイラとかだったら叩き割ってやるのじゃ」
とぼやきつつも石台に書かれておるとおり、石版そのものを押し込む――するとまたどこかでカラクリが動く音が聞こえ、正面の壁が開き、そこには――
「おお、これはすごいの」
「ええ、本当ですねぇ~」
「大きい……わね」
「大きいですねー」
「これが至宝……」
横に二メートルほど、高さ一メートルほどの……四角い金塊が現れたのじゃ。
「しかし、これが至宝か?別に金塊はそれほど珍しいものではないんじゃが?」
「お嬢様ここにまた書かれてますよ」
『これが朕が遺す至宝、過去現在未来の全ての印を無効化、もしくは承認することができる究極玉璽である!そしてこの玉璽で出された勅令は他の玉璽で出されたものよりも優先すること――』
「……中二病乙、じゃな」
簡単にまとめると『おれがかんがえたさいきょうのぎょくじ』というところじゃな…………馬鹿じゃろ。
それにこんな大きな玉璽と言う名の金塊を持ち上げることができるのかや?
少なくとも吾には無理じゃぞ。