第三百十二話
結局厳重に保管しておくしか対処できぬというなら別にゴッドヴェイドーの下でなくてもいいのではないかと思っておる。
というか不正が少ないゴッドヴェイドーであるが、先にも述べたとおり患者の治療のため、命のためなら多少の不正……いや、違法ぐらいなんだ!という輩が結構おる。
そんなところにこの駄本を保管するというのはなかなかリスキーじゃろ。治療法が載っておるなら……間違いなく見るじゃろ。見てしまうじゃろ。間違いない。
こういう輩はのぉ。混ぜるな危険!と書かれておってもなぜ危険なのかを確かめるために混ぜるからのぉ……まぁ職人はそんものか。
というわけで自分達で封印指定しておいて自分達で破ることになるじゃろう。
「…………くっ、否定できる要素が一つもないっ!」
いや、そんな血反吐を吐いてそうな様相で言わんでも……まぁ華陀は真面目じゃからのぉ。
もっとも華陀本人も人の命を救うために手段を選ばん人種じゃと思うがの!実行するまでの思考時間が違うだけで。
んー、最終的に燃え尽きて転移するなんてインチキな逃走方法でなければローマン・コンクリートで固めて宮殿の基礎にでもするんじゃがのぉ。転移が確認できんのはかなり不安じゃな。
将来的には情報も風化するじゃろうから太平要術の書の危険性も忘れ去られる……というか与太話の一種に成り下がることになるじゃろうからあまり意味はないが、吾が政権を握っておる間ぐらいは警戒したいしのぉ。また黄巾の乱レベルの大乱が、しかも前兆なしに起こるなんてことは勘弁して欲しいのじゃ。
現代なら周りをコンクリで一部を強化ガラスで覆えばいいんじゃけど、さすがにこの時代に透明で強度があるものなんて氷ぐらいしかないからのぉ。
ふむ?氷か……氷というのはこの時代においてなかなか厄介なものじゃ。
壊せないものではないし溶かせないものでもないが、その規模が大きくなればなるほどその分手間が掛かるようになるからの。
「氷漬けにして氷室にでも放り込むか?これなら簡単に手出しはできんし、監視も容易いじゃろ」
「いい考えだとは思うが透明度が高い氷を簡単に壊せないほど厚くするのは難しいはずだぞ」
「ハッハッハ、吾を誰だと心得る。天下一の蜂蜜好きであるぞ!」
「なんの理由にもなってないと思うが」
「おっと間違えたのじゃ。天下一の金持ちであるぞ!そんな些細なこと問題にならんわ!全ては金で解決じゃ!」
「やっていることは立派なことなのに言っていることは最低すぎるぞ」
「蜂蜜を前に皆平等!」
「意味がわからん!」
「吾もわからん!しかし真理である!」
なんてくだらないことを話しつつ、太平要術の書を氷漬けにすることが決定したのじゃ。
「それにしてもよくこの本を読まなかったな」
「ん?普通に読んだぞ?」
「朕も」
「……それなのに封印しようとしているのか?」
「いやー、正直こんな本で叶えられることなんぞ吾がやろうと思えばできることがほとんどじゃからのぉ」
「朕の唯一の願いは袁術に阻まれるのだ」
「…………この本、本当は大したことないのか?」
いやいや、華陀さんや。変な誤解するでない。吾等が特殊なんじゃよ。
「なんだったらおぬしが読んでみるか?」
「いや、あまり気を使わせるとまた灰になって逃げてしまうかもしれない」
まだ復活してそれほど経っておらんから少しぐらいは大丈夫じゃろうが……まぁこれから学んだことが災厄となる可能性が高い以上は控えるべきじゃよな。
……それに華陀が望むものでこの本が叶えようとすると人を蘇らせる方法と銘打って蘇生した結果ゾンビになったなんてこともありそうじゃしなぁ。
嫌じゃぞ、三国志の世界がバイオハザードな世界になってしまうのは。