第三百十四話
太平要術の書を無事に封印を完了したことに安心して帰路に着く袁術一行……だったのだが、思いもしない障害が立ち塞がる!!
「せっかくここまで来たのじゃからかき氷でも食べていくのじゃ!」
まぁなんのことはない、袁術の我儘である。
「おお!それは風流じゃ!」
そしてそれに賛同する帝。
実質トップと名目上トップの二人が賛同すれば否を唱える者はここにいない……いや、実質トップの意見が通らないことの方が少ないのだが気にしてはならない。この国ではそれが常識である。
「勢いで言っているみたいに見せてますけどしっかり準備した上ですけどねー」
「これ七乃!ネタバレするではない!」
せっかくのサプライズを張勲に暴露してプリプリ顔で怒る袁術……だが、その表情を真に受ける者はこの場にいない。
これが袁術達の平常運転。
「でもなんで水車が必要なんでしょうね?」
「また余計なことを!……ふっふっふ、しかしさすがに何かはわからんか!それは後の楽しみなのじゃ!」
一転してニヤニヤ顔で今回のためだけに用意された水車とそれに併設された小屋に小踊りしながら入っていく。そしてそれを暖かい視線で見送る者達……と何が起こるのか不安に思う帝。
「毎度毎度袁術は色々と思いつくな。ただ、楽しむよりも不安が先立つのが欠点だが」
「帝もそろそろ慣れたらいかがですか?もしくは諦めるかですね」
「そこまでは悟れん」
そんな会話を交わしながら袁術のあとに続くように小屋に入っていくと――そこには袁術の姿はなく、あったのは山盛りのかき氷と各種シロップ(もちろん蜂蜜もある)と果物、そして部屋を区切るようにカーテンで引かれている。
「吾はちょっと準備があるので先に頂いてたもれ」
「お手伝いは必要ありませんか?」
「多分大丈夫じゃぞ~」
孫権の心配そうな声に返事がきたもののその声色は力が入ったようにくぐもった声で、そう間をおかずにドスンという重たい何かが置かれる音が響き、続いてガチャガチャガチャと金属がぶつかり合う音色が鳴る。
「ちょっと大掛かりなもののようですねー。じゃあお嬢様の仰ったとおり頂きましょうか」
カーテンの向こう側から聞こえた袁術の声に従うように周りに促すように言う張勲。
その言葉に一番に手をつけたのはフードファイターと化している帝……なのだが、他のメンツも手をつけるが張勲は手をつけない。
こういう袁術直々の催しの場合はよほどのことがない限り、袁術本人が手が空くまで張勲は待つのだ。
その姿は忠誠心に溢れる、まさに忠臣!!……と見えるかもしれないが真実はただただ袁術の考えた催しを全て網膜に焼き付けたいというただのファン魂である。
「うんせ、うんせ、うんせ」
漏れ聞こえる袁術の声……そしてそれがたまらないとニヤける張勳……傍から見るとただの変態だが、残念ながらこれは袁術と張勳の日常である。
「さあ、準備は完了なのじゃ!」