第三百十五話
銅鑼を鳴らし(セルフ)、カーテンを開け(セルフ)、紙吹雪が宙を舞い(セルフ)、ドドーン!と袁術が登場!……全てセルフなのでめっちゃ息切れしているが、そこはご愛嬌だ。
「れでぃーすあんどじぇんとるめん!大変長らくお待たせしたのじゃ!」
「わーわー!」
「やんややんや!」
「ざわ…ざわ…」
とレディースアンドジェントルメンの意味はわからないのに袁術の勢いに見事なノリで返す張勲達。一部カイジ的なものが混じっているが気にしない。
「ここに用意されしはなんの変哲もない同じ重さの金より高いなんの変哲もない氷の塊なのじゃ!」
大事なことは二度言う。お約束である。
ちなみに氷の値段は夏相場。
「ではではご拝観あれ!なのじゃ!」
スチャッ!と袁術が両手に軍手を着けて握って取り出したのは平ノコ、三角ノコ、氷用ノコ(片刃の片手用ノコギリ)、ピック、小さい木槌などである。
「ほーれほれほれ、コココンのコンっとな!ふふふ~ん、ざーこざーこっと!」
袁術は道具を次々と取り替えながら氷を時には切り、時には削り、時には突く。
ただただ透明で大きな氷だったそれは袁術の手に掛かり形が変わっていく。
「おお」
まだ何になるか、というのはわかる段階には至っていないが趣旨は理解し、少しずつ出来上がっていくその光景に期待を高まっていく張勲達は完成していないにも関わらず声が漏れる。
その声を聞いて袁術は更にテンションがアゲアゲ、手の動きは一段と速くなり更に歓声があがると更に速度が……とはいかず、さすがにこれ以上速度を上げれば失敗しかねないし、何より怪我までありえるので自重した。
そして――
「で、できた、のじゃ~」
氷が溶けて水が滴り、袁術も重労働により汗が滴り落ちる中で完成を宣言した。
「おお~」
そこには氷でできているにも関わらず熱を発しているかのように神々しい鳳凰が両翼を広げている。
「これは鳳凰ですよね!今まである姿形と違って驚きです!」
周泰が言う通り、鳳凰は主流とされているデザインと比べると随分違ったものとなっている。
それは袁術が前世のゲームに出てきた鳳凰や不死鳥などを基にしているからである。
「汗を拭きましょうね~」
「着替えを用意します」
「お飲み物をどうぞ」
と鑑賞はほどほどに疲労困憊の袁術の世話を始める張勲と孫権と紀霊。
袁術の仕上げたものも大事だが、それ以上に袁術が大事なのだ。