第三百十六話
「ぷは~、冷えた蜂蜜酒は格別じゃのぉ~」
さすがに日頃からトレーニングしておるとは言うても慣れんことをやると疲れるのぉ。
もしかせんでも明日は筋肉痛じゃな!
「後で按摩致しますね~。なんなら今すぐでもいいですよ?」
吾の疲れを察した七乃がスリスリと軽く揉んでくれる……ああ~、気持ちいいのじゃ。
「本格的なのはあとで頼むのじゃ。もう一仕事あるからの」
というかむしろこちらが本命……か?いや、氷像も十分本命じゃぞ?そうでなければこんなに苦労した吾の努力が意味がなくなるからの!
まぁ周泰と帝がいたく感動しておるから頑張ったかいはあったのは間違いない。
「しかし……さすがお嬢様です。大雑把な姿形だけなら私でもそれほど時間が掛からずに再現できるでしょうがこれほど細かく作り込むことは到底できません。芸術というのは奥が深い」
「芸術なんて俺にはさっぱりだがこれがすごいってのは俺でもわかるぞ」
紀霊がいつの間にか持ち出した柄の長いうちわ……あれってなんて名前なんじゃろうな……で吾を扇ぎながら氷像を観察しておる。思ったよりも気に入ってもらえたようで何よりじゃ。
華陀もしげしげと診て感心しておるしな。……おっと誤字ったな……が華陀ではこちらの方があっておるのぉ。
本当は紀霊に大体の形を作ってもらってから仕上げを吾が……という考えもあったんじゃが、せっかくやるなら一から、と頑張ってよかったのじゃ。おかげで腕がめっちゃ重いがの。
「お嬢様がやりたいことを阻害するつもりはありませんがあまり無理は……」
と心配そうに孫権が覗き込んでくる。
「うむ、もうちょっとだけ勢いで動くのを控えるとしようかの」
「もうちょっと、ですか」
困ったやつだなぁ、的な表情を浮かべ……やはり私がしっかりせねば!と気合いを入れ直すような仕草を見せる孫権をみておると吾の知らぬところでダメ男に引っかからぬか心配になるのじゃ。
……まぁ吾の知らぬところ、というのはほぼないんじゃがの。
孫権に限らず幹部には常に陰ながら護衛がついておるからダメ男に引っかかることはない……はずじゃ。いや、まぁ恋というのは突然じゃからきっかけに関しては防げんがの。あ、一応注意しておくが恋は恋でも呂布のことではないぞ?……え?言わんでもわかっておるって?これは失礼したのじゃ。
それと孫権、自分がしっかり者だと思っておるが、最近の闇落ち加減をみておるとちょっと頼るには不安があるんじゃよなぁ。
なんというか名剣じゃと思っておったら妖刀や魔剣だった的なオチになりそうな勢いなんじゃぞ?そのあたり自覚しておるか?
最初から三節棍や蛇腹剣みたいな邪道系の七乃とは違って最初は真っ当ないい剣だったんじゃ。それが妖刀や魔剣になってしまってはさすがに責任を感じてしまうぞ。
「お嬢様?今変なことを考えましたね?主に私に関して」
「そ、そんなことはないぞ?七乃はちょっと歪じゃがかわいいと思っておったんじゃよ」
「もう!お嬢様ったら!そんな本当のこと言っても蜂蜜しか出ませんよぉ~!!はい、あ~ん」
うまく誤魔化せたようで何よりじゃ。
「でもお嬢様の方が可愛いですよ」
とあ~んからのナデナデに移行。その速さは逃走する猫の如し!
「そんなことはあるが七乃もかわいいぞ~」
と吾も七乃をナデナデ……ハッこの流れは?!
恐る恐る周りを見ると……めっちゃ順番待ちしておる?!
ハッ!?しかもこれってナデナデするだけでなく可愛いとか褒め言葉を言わねばならんのでは?!
さすがに七乃以外にするにはかなり抵抗があるんじゃが!!