第三百十七話
とりあえずまだ催しがあるということでナデナデ待ちを保留(拒否はできず)して重たい体を動かして準備をする。
とはいえ、次の催しはこれほど体力を使うことはないがの。使わぬ訳ではないが。
「さて、ここにあるのは先程より小さいが厚めの氷じゃ!まぁこれはさして変わらんの」
と言いつつ実は少し違いがあるんじゃがの。
この氷は先程の氷と比べて実は透明度が低い、つまり不純物が少し多いのじゃ。特に皆から見ると奥、つまり吾からすると手前側が曇っておる。
これは別に安物を使っておるわけではないぞ?吾がこんなことでケチるわけがない。ちゃんとした理由が存在する。
「今回の目玉は……これじゃ!」
「それはまるで袁紹さん……いえ、曹操さんの髪のようですねー」
そういう用途なのは間違いないが……七乃、袁紹ざまぁや華琳ちゃんの髪をドリル扱いするとは怖いもの知らずじゃのぉ。知っておったが。
本当は華琳ちゃんの縦ロールよりも吾の縦ロールの方が近いぐらい細いんじゃがそのあたりは七乃の忖度じゃろう……別に言っても怒らんけどの。
「ふっふっふ、これは急なことで時間がなく、寝る間も惜しんで李典が開発した削氷機じゃ!」
先端のドリルがシュイーンという音とともに回転させてみせる。
「李典さんも災難ですねー」
それは言わぬお約束というやつじゃの。軽く泣かれたのは事実じゃが、あれはおそらく新しい物を開発できるという嬉しさの涙だったに違いないと確信しておる。(節穴)
とは言ってもこの削氷機は李典の武器『螺旋槍』の外部動力小型版であることからそんなに苦労しておらんじゃろ。(小型化するのが難しいという事実からは目を逸らし)
「ああ、それのために水車が必要だったのですね」
「うむ」
外部動力がなければドリルは回らんからの。まさか人力でするわけにもいかんしの……さすがに続けてやれば吾が死ぬ。
おかげでこのドリルは水車からニョキッ!と生えるように突出しておるから不格好ではあるが、気にしたら負けじゃ。
「そしてこれを――こうじゃ!」
氷を押して回転するドリルと接触してなんとも言えない音が響く。
そして氷を引き抜き、角度を変えてもう一度押し付ける……前にドリルの交換をしておくかの。
これは現代のテレビ番組でみたフローラルアイス……じゃったと思うんじゃが、氷を削って中に花を描くというものを再現しておるのじゃ。
ただし現代のような透明度の高い氷じゃとこの削氷機では満足できる出来にはならんがの。
さすがに電気の力には勝てん……のじゃが、李典はすごいのぉ。完全ではないがある程度再現できるほどのトルク数を水車で生み出すとは。帰ったら追加予算を組み立ててやるかの。(ただしもともと予算なんてあってないようなものなのでありがたいかどうかは別である)
何十も角度を変え、刃を変えて抜き差しして――
「最後に顔料を流し込んで…………出来上がりなのじゃ~!」
「「「おおおお~」」」
今度のフローラルアイス?は先程の氷像よりも大きな歓声が上がった。
「氷の中に花が生まれた……」
「これは花を凍らしたのではないんですよね?目の前でお嬢様が頑張っている光景を見ていたのに信じられません」
「雅じゃ」
大好評なようでなによりじゃ。
改めて考えてみると、たしかに氷像はあくまで彫刻の一種で目新しいものではないがこのフローラルアイス?は氷の中に芸術を生み出すので斬新なものになるか。
現代でも随分と話題になっておったしの。