第三百十九話
重い重い空気が会議室を占拠していた。
これは過去最高であった袁術による裏商会の撤退時を上回る重さだ。
「本当に……本当にどうにもならないの?」
告げられた宣告を受け入れられずに確認の言葉が出る。
その宣告はもっとも信頼する、有能な忠臣達が導き出した現実であっても。
「はい。……どう計算しても交易路の完成にはお金も物も足りません」
「これ以上はもう社会に乱れてしまいます」
孔明と鳳統は揃って暗い表情と声と内容で応える。
そもそも社会が乱れるという表現も無理がある表現なのが現状だったりする。
鳳統は社会が乱れるという定義を政権の交代、もしくは無政府状態に陥る事態としている。
だが、普通は社会の乱れと言えばもっと前段階である物価の高騰や暴落、治安の悪化、病の流行などのことを指す。
そして現状は物価の高騰、それにより治安の悪化、官僚の汚職などが激増していて民の不満が溜まっている。それも今までは劉備のカリスマで押さえつける、もしくは誤魔化してきたが、もうすぐ破裂しそうなほどに。
「北郷さんからの援助は――」
「北郷さんからの援助も加味しています」
元々国力自体は劉備の方が上であることから援助することで安全保障と北郷は考えて無駄に争うよりは、とできる限りの援助はしている。そしてそれを孔明達は把握していてこれ以上は争い……戦争に発展することもわかっている。
「え、袁紹さんから援助を――」
「袁紹さんから引き出せる援助の楽観的な数値を三倍にして計算しても無理なんです」
つまり現実的には出してくれないであろう金額の更に三倍にした金額でも無理なものは無理、ということである。
第一、裏商会撤退後から袁紹は今までずっと援助してきており、しかも何らかの形で恩を返した記録は表にも裏にもない。
ただただ負債を増やし続けている相手に援助し続けている袁紹は褒め崇められることはあっても責められる要因はない……はずなのだが実はあまり劉備陣営からの評判はよろしくない。
なぜなら、袁紹が援助する→裏商会が撤退した現在益州の最大商会は袁紹領の商会→つまり何をするにもその商会を通さなければならない→援助した資金もほとんどは袁紹の下に返ってしまっている。
さすがは袁家の固有スキル黄金律である。
しかし、その流れは当然であったとしても負の感情が生まれるのは仕方ないことでもある。
「そ、孫策さんは――」
「多少の援助はしてくれるそうですが、雀の涙としか言いようがありません。もう少し時を置けばあるいは……ですが」
孫策達は交州への交易路の開拓に成功して順調に収益を上げている……が、それまでの出費を考えればまだまだ資金を回収できたとは言えず、劉備達よりも余裕があるのは間違いないが他所を援助するほどの余裕はない。
「……本当に……無理なの……」