第三百二十話
劉備には言わないが孔明には打開策はあった。
しかし、それは『現状』をなんとかする、というだけであって破綻は免れない策ばかりだった。
まず思いつくのが袁紹を攻めること。
金、物資、人、全てが揃っているのに軍事力が皆無であるため、ローリスクハイリターンで攻め落とすことができる。
そして北郷に謀略を仕掛けて追い落とすこと。
それほど富んでいないが、涼州兵を保有しているため軍事力の底上げになる。軍事力は優れているが知の面においては北郷と姜維と取り込んだ優秀な劉表の家臣達数名以外は凡庸か無能か脳筋しかいない上に元々は寄せ集めであることから謀略を仕掛ければ崩すことが可能だろう。リスクという意味では袁紹を攻めるよりも低い……が利も少ない。
ついで交州の交易路を抑えるために孫策を攻めること。
これは上記二つの案よりも難易度が高い。
孫策の人材は能力が高く、層が厚い。そして多くの家臣は世代を経て仕えている存在であるために忠義に厚い上に劉備の君主としての器の方向性が違う。更に孫策は公職に就いていて、劉備は無官であることもあって調略が難しい。
なら力を持って攻めるしかないのだが、孫策自身の武とその武に集まる粒揃いの家臣にそれに鍛えられた兵士達。
戦争をするとなれば間違いなくお互いが甚大な被害を被ることとなり、収支が合わないものとなるだろう。
ここまでは余裕がある時でもあった選択肢だ。ここからは現状を鑑みて増えた選択肢だ。
漢中にある五斗米道を攻める。
袁術が支援しているため、かなりの物資が溜まっていて、その量は益州の国庫を軽く上回り、そこに加えて非武装であるため攻めるのは簡単……そうではあるが未知数が多くて怖い存在である。
次に、益州内部の不穏分子をあえて誘発させ、鎮圧して財産を徴収する。
戦争を仕掛ける上では一番勝率が高い方法ではある……が益州全体が貧しくなっている今、財政の改善はならないだろう。むしろ赤字になる可能性も含まれている……が不満の封じ込めをすることはできる。
董卓を謀略に掛ける。
戦力的には大陸で上位、武力的にはトップ、経済的にも上り一辺倒、まるで穴がない……ように見えるが、あまりにも急成長が過ぎて(袁術のせい)防諜や管理体制が緩くなってしまっているので付け込む隙は十分にある。
最後に袁術を攻める。
勝てば全てがひっくり返る。(いろいろな意味で)
富、名誉、人、権力、全てが手に入る……その代わり難易度は当然の最高難易度である。
ただし、これらは全て共通する問題がある。
それは――大義名分がないことだ。
もっとも大義名分というのは民衆に対してのものではない。では誰に対してか、というと……それは劉備が自身を納得させる大義名分、である。
策のどれをとっても和を乱すきっかけは自身であり、有効な策であればあるほど正道から外れる。
不義理なことを多用すればそれは間違いなく自身に返ってくる……なにせ自身が義によって立っているのだから。
しかし、その義は乱世でこそ輝ける。
では乱世でなければ…………。