第三百二十四話
「あちゃー。こりゃ大変じゃ」
急報が届いた。
中身は、華雄が姜維を捕捉。戦闘となり、華雄軍優勢も伏兵による横撃にて形勢逆転し撤退へ。殿を務めた華雄重傷を負う。
「華雄が負けることまでは予想できておったが、まさか負傷するとは……しかも重傷……董卓達も手配するじゃろうがこちらからも五斗米道(ゴッドヴェイドー)に一筆書いておくか」
しかし、いくら脳筋とはいえ、よく華雄を倒したのぉ。
吾等の見立てでは武力や統率能力、装備の差で華雄が勝っておったから多少の策を用いたところで姜維は勝てぬと出ていたんじゃが……これじゃから戦は嫌じゃ嫌じゃ。
残念なことに華雄達は姜維の顔を知らなかったらしく、未だに董卓達は賊の正体を把握しておらんらしい。
後ろに北郷、更に後ろに劉備がおるとわかれば行動方針は大きく変わるはずじゃが……さて、どうするかのぉ?今更情報を流すか、それとも放置するか。
討伐そのものを考えれば情報を流す一択なんだじゃが、こちらの情報収集能力の一端を知られてしまうというのもなぁ。
劉備達の耳がどこにあるかわからんし……まぁ恋ちゃんがおるから中枢にはおらんとは思うが……うーん、黙っておくか。董卓達の能力を推し量るのにも丁度いいしの。
「とはいえ、物資援助はしておくか。七乃頼むぞ」
「了解です~」
それにしても姜維は阿呆じゃのぉ。
戦闘は強いのかもしれんが、経験が足りておらんのかのぉ。
自分達の国力、後ろ盾の経済状況を考えれば経済に寄与しない戦闘なんてすべきではない。
華雄を負傷したことで万が一死んだりでもしたら董卓達は弔い合戦を行うじゃろう。そうなれば地の果てまで追いかけるぞ。あそこは吾のところと同じくアットホームな職場じゃからのぉ。……アットホームという言葉を聞くとブラックな臭いがプンプンするが気のせいじゃ。あ、ついでに言えばとても明るい職場じゃぞ!(夜も仕事ができるように蝋燭で明るい)
話は戻すとして、華雄や姜維の被害がどの程度かの情報はまだ上がってきておらんが、華雄がそう簡単に破れたわけがないので間違いなく姜維は相応の被害を受けておるじゃろう。
涼州騎兵の補充は限度があるのじゃから消耗は抑えて然るべきじゃ……ああ、もしや涼州への密使の数が多いのはその人員を確保するために渡りを付けておるのか?
もしそうなら面倒じゃの。いい加減涼州人は野蛮人が多いゆえ富を奪う誘惑に乗る奴らは結構おるじゃろう。誘惑する側が同じ涼州人ならなおさらじゃ。
更に言うなら董卓の施政は野心を持つ者にとっては微温く感じるというのも要因の一つじゃろう。賈駆が聞けばブチギレ必至じゃがの。
「取締の強化……なんぞできるわけもないか」
何度も言わんでもわかっておると思うが吾も董卓のところも政府の処理能力はいっぱいいっぱいじゃからのぉ。既に限界に到達しておる。
「まぁ董卓達も涼州騎兵であることはわかっていることはわかっているっぽいし、涼州内で兵を集める可能性があることを指摘しておくかの」
さて、董卓は次は誰を派遣するのか。
華雄で駄目となるとかなり選択肢が狭まるのぉ。
「まさか華雄が負けるなんて……それにしばらく動けないほどの怪我を……ごめん。ボクが読み違えたわ」
「勝敗は兵家の常やからしゃーないって賈駆っち。それでどーするん?今度こそウチが行こか?」
「……ええ、霞にお願いするわ……でも……」
「でも?」
「恋もお願いできるかしら」
「……華雄の仇、取る!」
いつもは寝ぼけ眼の呂布が珍しく気合の入った声で応える。
張遼に呂布という陣容は賈駆の本気度を具現化している。
ちなみに仇とは言っても死んではいない。
「ねねも頑張――「あ、ねねはお留守番ね」――なぜなのですかーーーー???!!!」
「いや、霞が抜けてねねまで抜けたらウチが機能不全を起こして賊退治どころじゃなくなるわよ!恨むなら何も考えず次から次へと無茶振りする袁術に言いなさい!」
政策の一つ二つが滞るだけならまだ許容できる。だが、問題は昔と違って経済活動に関しての事柄が多いため玉突き事故のように次々他にも波及してしまうのだ。
そもそも陳宮がいたところで徹夜コースであるのだからそれ以上は無理だ。
「横暴なのです!職権乱用なのです!」
「だからそれも袁術に言いなさい!」
賈駆も日頃はこれほどストレートなものいいは……しないこともないが、上位の存在の悪口など言うことは軽々しく言わないのだが、仕事の増加に自分の失策による華雄の負傷という心理的負荷によって口が悪い方に軽くなっている。
「詠ちゃん。そんな言い方しちゃだめだよ」
「月……ごめん」
失言は身を滅ぼす。
いくら身内しかいないし、袁術はそれほど気にする質ではないとは言っても失言はしない方がいいのは当然だ。