第三百二十八話
「将がやられて突っ込んでくるなんて涼州騎兵の鏡やな!!」
本来将がやられれば指揮乱れ、遁走するのが当然だ。
散り散りに逃げれば確率的には逃げ延びる可能性が高くなる。涼州兵は騎兵で構成されているのだからなおのことだ。
にもかかわらず、姜維が死んだわけではないが瀕死の重傷になっていても逃げるでもなく、襲いかかる敵にむしろ自分達こそが狩る側だ、と言わんばかりの突撃を敢行する。
「その意気買ったるでぇ!」
将にも関わらず愛馬で先頭を突っ走る張遼が叫び、後ろを走る兵士達もそれに続くように声を上げる。
それに負けるものかと北郷軍……いや、涼州騎兵達も叫ぶ。
そして戦闘が始まった。
互いに騎乗した状態で弓を構え――張遼達が先に解き放った。
袁術の支援により袁術軍のものよりは劣るものの優れた武装に一新されたそれは涼州騎兵が使う短弓よりも射程が長いため、先制攻撃を可能とした。
とはいえ、涼州騎兵にとってはそれほど脅威に値しない。
そもそも相手が歩兵相手であることが多く、用いられる有効な武器といえば長槍か弓矢、武器とは違うが馬防柵などだ。故に経験も豊富で対応も心得ている。
構えた弓を解くことなく馬を操縦し、密集状態を解き散開。各々距離を取る。
密集状態だと大きな的になり、更に身動きが取れず躱しにくい上に矢にあたり落馬した場合に周囲を巻き込む二次被害を防ぐというものだ。
実際被弾は少なく、落馬した者も少数となった。
降り注ぐ矢が止むと合図するまでもなく密集を始め――そしてまたも合図なく構えていた弓の弦から手を離し、お返しだとばかりに張遼達に矢が降り注ぐ。
張遼達も涼州騎兵と同じように対応を――――しなかった。
散開をすることもなく、速度も落とさずに真っ直ぐ進む。
「うりゃ!」
先頭を走る張遼が槍で矢を払う。それに習うように後ろに続く兵士達は小回りの利く剣で払い、時には鎧で受け弾く。
鎧も袁術の支援で得たものであるためその性能は……(以下略)。
ただし、張遼はいつもの格好であるため防御力はお察しである、がそれを許すほどの技量がそこにはあり、降り注ぐ矢は全てを払って突破した。
そしてお互いまた弓矢を構える。
先程のは挨拶に等しい。
なぜなら互いに降り注ぐ矢……つまり短弓による曲射を行ったが、語ったとおり騎兵には曲射はあまり効果がない。ただし射程に優れているためやらないよりはいい。
そしてこれから行われるのは本番。
威力重視の直射の一斉射である。
「射て!!」
どちらの声かは判別がつかないほどの僅差で指示が飛び、矢も飛翔する。
互いにドサドサッと馬なり人なりが倒れるが明らかに涼州騎兵の方が倒れる数が多い。攻撃力と守備力の差が如実に現れた。
しかし、そんなことで怯むなら最初から数に劣っているのに突撃なんてするわけもなくむしろボルテージがアゲアゲで目が血走る。