第三百三十四話
「ハァ、また面倒な時期に面倒なことをしようとするのぉ」
いい加減劉備の無差別密使攻撃で影や商会がてんてこ舞いな上にやっと姜維の略奪部隊の掃討が終わってやっと支援物資の書類が減ったかと思ったら董卓達からの報告書が山程届いて、嫌がらせかゴルァ!と怒鳴りながらやっつけた……と思ったら華琳ちゃんから北伐の経過報告書が届いてもう少しで終わるというところで――
「揚州の豪族達に不穏な動きあり、のぉ」
まだ詳細な情報が手に入っておらんようじゃが、近いうちになんらかの動きがあるのは間違いないらしい。
ハァ、いつもならこんな曖昧な情報ではなく、正確な情報が入ってくるんじゃが劉備の無差別密使攻撃と姜維の行方を追うのに諜報員を割いておる弊害がこんなところにも出てきておるな。
しかもここのところ騒がしい山越も絡んでおるようじゃし……もしやまた討伐軍を出さねばならんのか?まぁ送り出すだけなら襄陽あたりから河を下ればいいだけじゃからそれほど苦労はないが……また書類の山が出来上がるのぉ。
既に揚州に派遣しておる関羽が奮闘はしておるようじゃが、兵士そのものが信用できずに苦戦しているそうだ。
兵士も揚州に住んでおる者達で構成されておるからのぉ。何処からどう繋がるか、外様にはわからんから選別が大変なようじゃ。
一応関羽を派遣するきっかけとなった山越が起こした侵略?略奪?行為に関しては関羽が先頭を切って蹴散らして回って割と簡単に鎮圧したそうなんじゃが、軍の脆弱さから関羽が離れればすぐに問題が再熱するじゃろうということで関羽が鍛え直しておったんじゃがのぉ。
「また帰還が先送りじゃのぉ。ま、今下手に帰ってくると華琳ちゃんからしつこいぐらいに欲望ダダ漏れの援軍要請が来そうじゃからある意味幸いか?」
華琳ちゃんの場合もっともらしい理由を並べ連ねて来るから断る方としても面倒なんじゃよ。あまり素っ気ない返事を返すと不仲説が発生していらぬ障害が発生しかねんしのぉ……まぁ未だに華琳ちゃんは虎視眈々と天下を狙っておるから不仲ではないにしても完全に気を許せる状態ではないのぉ。……天下が欲しいならとっとと立てば良いのにのぉ。
それはともかくとして関羽に増援が必要かどうか問い合わせてみるかの。
というわけで返答が来たんじゃが、内容は――
「送られた兵士と現地の兵士で諍いが起こる可能性が高いため遠慮する……と、なるほどのぉ」
ゲームなんかと違ってそういう可能性もあるか。
特に吾が増援として手配するとなると司隸か北荊州、特に宛か襄陽あたりからになる。こう言ってはなんじゃがこのあたりは都会なんじゃよ。それに比べて揚州は田舎……というわけでもないはずなんじゃが、こういう垣根は現代でもよくあるじゃろ?でも現代と違ってこの時代じゃと割とガチ目になるから困るんじゃよなぁ。下手したら死人が出るぞ。
自分のお里を馬鹿にした者を許せるほど寛容性や道徳、人を殺して裁かれるリスクを考える思考能力を期待してはいかんぞ?都会っ子であって、吾が多少テコ入れしておるとは言えど所詮は市民、教育レベルは知れておるし、揚州なんて……のぉ?
そもそも一定の階級以上にならんと訛りがひどくて会話も覚束なかったりするんじゃがの。
「とりあえず兵士はともかく物資を送っておくか?しかし豪族達が相手となると横流しされる可能性も高いしのぉ……悩ましい」