第三百三十五話
とりあえず揚州が当てにならないということで豫州の汝南郡に物資集積場を構えることとした。
汝南郡ならば揚州の州都である寿春まで河を下ることで到達することができるし、別の河を下り、海に出れば交易中継地として繁栄しておる上海への航路も安定しておる。
ただし、潜在的問題が無きにしもあらず。
何が問題かというと……汝南郡と聞いてわかるものにはわかると思うのじゃが……汝南郡って吾の実家、つまり袁家の根城なんじゃよなぁ。
「厄介事が身内というのはいつの世も変わらんか」
もっとも現代の身内の厄介事はもうちょっと救いがあることが多いがの。金で解決できることが殆どじゃからな……いや、しかし、この時代なら首を斬って終わらせられることが多いのでこちらの方が簡単といえば簡単か?まぁ恨みは買いやすいがの。ちょっと判断に困る所じゃな。
ただ、家事情ならともかく国政に関わることじゃからかなり迷惑なのは間違いないの。
余談じゃが、その身内は吾のツケで上海で豪遊することが現在のブームじゃ。
まぁ金をばら撒くにはちょうど良いかと思って放置しておる状態じゃから問題ないんじゃが……これでも圧倒的貨幣圧力(物理)が迫ってきておるからむしろ経済を回してくれておるからいいんじゃが……たまに吾のことを甘く見る奴らがおるのがのぉ。おとなしく飼われておればよいものを、官位をよこせだの女を都合しろだのと言ってくる奴らがおるんじゃよなぁ。
その度に貴賤問わぬ犯罪者共の名を刻む見せしめ墓地に載せられる運命を辿る。そろそろ学習してほしいんじゃがの。
「後、あまり有能とは言えんが関羽好みの勤勉で忠義に篤い信頼できる者達も送ったし揚州の方はこれで大丈夫……なはずじゃ」
揚州の豪族達が懐柔しようとしたところでそれを受け入れることはないじゃろう。
しかし……なーんか嫌な予感がするんじゃよなぁ。
くっ、諜報能力の低下がかなり痛いの。
今まで十全とは言えんが詳細な情報が入ってきておったからこのような事態になって不安になっておるだけじゃとは思うが……周泰を派遣して調べさせるか?いや、それにしても何処で何を調べさせるかぐらい目処を立てねば非効率が過ぎる。
周泰は今司隸周辺の密使に対して警戒、処理を担っておる現状で引き抜くにはそれ相応のリターンが欲しいんじゃ。直感に頼って差配するのはちょっと無理じゃ。孫策ではあるまいし。
「孫策……孫策か」
孫策なら南荊州じゃから河を下ればすぐ揚州じゃな。
協力を打診することは可能じゃが――
「断固反対です!」
と本来擁護する立場であるはずの立場である孫権が真っ先に反対を宣言……まぁ想像通りじゃな。
「あの直感で生きる愚姉に口実を与えるようなことは極力行わない方がいいと思います!」
下手をすると直感だけで戦火を灯すかもしれません!と締めくくる。
うーむ、確かにありそうな話じゃのぉ。
それが後付でも成果となるような事実が見つかればそれを成果として認めねばならんし、そうなると孫策に褒美を与えねばならん。そしてその要求が揚州に関わる何かであることは想像に難くない。
別に揚州に関わらせるのが嫌なわけではないんじゃが……そもそも南荊州の統治と交阯との交易でこれ以上他に手を割くほどの余裕はないはずじゃ。それは孫策も周瑜もわかっておるとは思うが……悲願である揚州を前に感情よりも理性が勝つ……と断言はできぬ。
それにこちらが望まぬタイミングで戦端を開かれるのは勘弁してもらいたいしのぉ。
仕方ない、諦めるかの。