第三百三十六話
「本気でやりおったのぉ」
対応をどうしようかのぉ~、と能天気に考えておったら揚州で豪族達が蜂起した知らせが届いたのじゃ。
まったく、貧しくもなく、危機もなく、平和な世でも争いを好む者というのはおるもんじゃのぉ。
正直民が付いて来んじゃろ……とか思っておったんじゃが……思った以上に民とは阿呆なんじゃな、と改めて実感したところじゃ。同時に教育って本当に大事であると言うこともの。
「叛徒共に裁きの鉄槌を!一族郎党皆殺しです!根切り!大粛清です!」
最近、特にダークサイドに堕ちるどころか平然と泳いでいる感がある孫権が暴走気味に言っておる……が、これには七乃を始め、他の幹部も賛成のようで異論を唱えん。
まぁ少なくとも首謀者はそうすることになるじゃろうな。
叛徒は揚州の各地で蜂起したが、やはり多いのは中央の文化圏から遠い南側が多く、事前情報通り山越とも協力関係で超面倒なことになっておる。
山越の地理はそれほど確認できておらん。元々劉備の密使攻撃以前から諜報員に余裕があるわけではなかったからの。侵略するつもりもなかったし、貴重な諜報員……特に潜入したり偵察したりする者達が減るのは痛いからのぉ。商会系の、ついで系諜報員は替えが利くんじゃがの。
ハァ、本当に面倒じゃのぉ。
「こうなっては先日の配慮なんぞ無視じゃな。援軍を送るとしよう」
「了解しました~。どちらから兵士を出します?」
「そうじゃのぉ……とりあえず徐州から七千、豫州からも七千と言ったところかの」
群雄割拠ならともかく、平和な世……であるはずの現在なら敵はそれほど大規模化しておらんじゃろうし、武装そのものもそれほど質は良くなかろう。一万四千もおればなんとかなる……はずじゃ。
「荊州からは出さないんですねー。やっぱり劉備さん達を警戒してですか?」
「うむ、この機に乗じて攻めてくる可能性が高い……というかもしかするとこの蜂起そのものも劉備の策謀かもしれんからの」
劉備達にいくら反政府の豪族達とはいえ、蜂起させるほどの取引材料などあるはずがないが、諸葛亮や鳳統であればなんとかしてしまうやもしれん。手も足ももいだはずではあるんじゃが……つくづく厄介な奴らじゃ。
「装備は二線級を手配しておったはずじゃな?」
「ええ、汝南に十分な量が運ばれています」
「では豫州の軍と共に輸送するようにするのじゃ」
途中で叛乱軍に奪われたり内通者に横領されたりせんか心配ではあるが、豫州軍がおれば多少は安全じゃろう。
しかし、今回の討伐で多少は落ち着いてくれればいいんじゃがのぉ。
こんなに簡単に蜂起してしまうのはおそらく吾の軍が舐められておるからじゃろう。
吾等がまともに戦ったのは黄巾の乱や劉表との戦い、反袁術連合なんじゃが、それぞれの勝因は劉表はおびき出して本拠地を寝返らせ、反袁術連合の時も華琳ちゃんの寝返り(最初から中立に見せかけてこちらについておったが世間的には寝返り)のおかげとなっておるし、唯一まともに武功といえるのは黄巾の乱なんじゃが相手は軍とも言えん烏合の衆じゃからのぉ……というわけで吾は政治力はともかく武力は評価されておらんのじゃよなぁ。
むしろ不意を突かれて吾が負傷したりもしたからなおのこと評価が低いといえる。
おまけに益州は反政府組織が不法占拠しておるとなるとそりゃ舐められるじゃろう……益州に関しては取り返しても仕事が増えるだけ……なんて説明しても納得されんじゃろうしなぁ。
ぜひ関羽には頑張ってもらわねば。