第三十二話
……やはり思い出した限り孫策を討ち取れば勝利、などというルールは何処にもないのじゃ。
吾達にはちゃんと吾が討ち取られたら敗北となっておるのに……不公平過ぎるじゃろ。
「もー!!絡まって動きづらいわねぇ!!」
堀の中で巨乳が鉄網で縛りプレイ……眼福眼福……じゃなかったの。
孫策が率いておった部隊の者達も五十ほどから四十ほどにしか減っておらんし……チート、多過ぎるじゃろ。
しかし剣をスピードが落ちておるように見えるが……気のせいかのぉ。
さて、これからどうするかが問題じゃな。孫策に手を割き過ぎたせいで牽制が黄蓋がもう目前じゃし、周瑜は……迂回してこちらの注意を散漫させようと動いておるな。
む、周瑜の兵士は弓矢が主装備か、となると早めに対応しておかねばなるまい。
「李豊に周瑜を相手にするように伝えるのじゃ。ただし、あくまで弓で応戦するだけで接近されそうになれば後退して七乃の部隊と協力して当たるようにと申し付けておけ」
「ハッ」
「ということで七乃も持ち場に戻ってたも。おぬしなら周瑜相手でも遅れは取らぬじゃろ」
「私に対する評価が過大過ぎて辛い」
七乃ならできると信じておるぞ。
「……過大過ぎて辛いですぅ」
そう言い残して七乃自身の部隊へ帰っていったのじゃ。
ちなみに七乃が吾の側におったのは孫策を挑発するために呼んだのじゃ。七乃は自然挑発型じゃから特に指示せんでも役割を果たしてくれたのじゃ。
む、何やら妙に前線の被害が大きいようじゃが……くっ、そうじゃった。黄蓋は弓の達人じゃったな。大盾の隙間を射抜いておるようじゃ。
いくら矢が届く距離とは言うても狙い撃つには難しい距離のはずなんじゃが……孫家の巨乳は化け物か?!
「黄蓋を集中して狙うのじゃ。動きながらでは狙いも荒くなるはずじゃ……もう孫策の対処が面倒なので埋めてしまうのじゃ!」
火計なんぞは死んでしまうからいかんが、埋めるだけなら頭さえ出ておれば死なんじゃろ。
吾の指示を聞いた兵士が孫策へ土を被せ始める……が——
「むむむ、まさか土を被せておる兵士を狙ってくるとは……本当に面倒な奴らじゃ」
今度は狙撃ではなく、黄蓋が率いている部隊による一斉射撃で孫策を援護を始めたぞ。
恐らく吾等の対応を見て、孫策がまで生きておることがわかったんじゃろうな。早く倒さんと黄蓋が辿り着いてしまう……そうするとあの虎は檻を抜け出し、白兵戦をせねばならなくなるぞ。
「袁術様、鉄網の残りが後わずかです」
弩と矢に予算を使いすぎたかのぉ……今もこれだけあってもまだ不安に感じる段階でそれはないの。
バンユーマンが倒せないのじゃ。
なんてくだらんこと考えておったら黄蓋が堀まで到着してしもうた。
「では次の策を発動するのじゃ」
合図を送ると前線付近から黄蓋の部隊に向かって槍が叩きつけられる。
「いやー六メートルの槍を用意するのは苦労したぞ」
戦国時代、織田信長が運用したことで有名な三間槍、確か三間は六メートルもなかったと思うからそれより長いはずじゃ。
これも李典のおかげじゃな。
李典が根本から開発したわけではなく、吾が開発を命じておった開発チームに李典が加わって完成が早まったとらしいぞ。俗にいうブレイクスルーじゃな。
演習で使うのは初めてなんじゃが……うむ、折れたりする不具合はないようじゃな。よく吾の無茶に応えてくれたものじゃ。
これだけ長いと普通は一人二人では操ることも難しいのじゃが……この世界の人間は一人で操るのだからやはり元の世界とこの世界の人間は別の生き物じゃと思う。
「よしよし、いい感じに撃退できておる……あっ」
振り下ろされた長槍を足場に黄蓋が前線に突入しおった?!しかも孫策がおる場所からじゃから孫策の足止めが——…………なんか孫策がものすごくいい笑顔でこちらを見ておるぞ。
どうするのじゃ、どうするのじゃ、どうするのじゃ〜。
「にゃー?!近衛隊が枝か何かのように吹き飛んでおるぞ?!」
しかも当然ながらこちらに近寄ってきておるし?!
ただし、さすがは近衛隊か、この前の演習で見せた孫策の突撃より随分破壊力がない。
もっともすぐ脇に黄蓋もおるせいで酷い損害が出ておるがな。
「このままではすぐにここまで到達するか……あまり使いたくはなかった手じゃが、手を選んでおる場合ではないか。例の物を孫策の進行方向へ設置するのじゃ。そして梁興に百を預ける。そして七乃と李豊と合流し、周瑜を攻めよ。攻めきらねば負けと思えとも言っておけ」
「りょ、了解しました!」
アレで足を止めれるかどうかで勝敗が決まるぞ。
……設置は出来たようじゃな。
さて、どうなるか……うむ、足は止まったの。どうやら気を引くことに成功したようじゃ。
ちなみに例の物とは蜂蜜酒五樽分ぐらいじゃ。そしてそこには『これを呑み終わるまで動かぬなら禁酒を一時的に解き、この後の宴も許可しよう』と書いておる。
ふっふっふ、この前の賊退治で孫策は禁酒中じゃからのぉ。呑みたくて呑みたくて仕方ないじゃろ。
この後の祝杯を堂々と飲めるのじゃぞ?もう答えは出たようなもんじゃろ?
もしこれを断るようならこの後の勝利の宴でも絶対酒は呑ませてやらんのじゃ。何としても妨害するぞ。酒樽の中身を楽進特製の麻婆豆腐に入れ替えてやるのじゃ。いや、孫策がこっそり(のつもり)飲み代を経費として出しておるのを全て給金から差し引いてやるのもよいな。
後はこの間に周瑜と黄蓋を仕留めればいいのじゃ。
それに今回吾が用意した蜂蜜酒はアルコール度数が高い物で、日頃孫策や黄蓋が呑んでおる安酒は度数なんぞたかが知れておる。だからこそ延々と呑めるのじゃからな。アレで酔う者はアルコールに弱いんじゃろうな。
つまり、蜂蜜酒に一度手を付ければ酔ってしまう可能性が高く、酔わせてしまえば戦闘能力がガタ落ちなのじゃ……いや、まぁ、言っておいてなんじゃが、孫策がそんなに簡単に酔うとは思えんがな。
むしろ酔ってパワーアップしそうじゃ。
「よしっ、孫策が酒に手を付けたぞ!楽就に黄蓋の足止めに専念するように伝えよ。吾の護衛を前面に出して孫策が率いておる精鋭部隊に当てよ」
さて、これで本当に何も策がないぞ。
全体を表すと七乃、李豊、梁興五百vs周瑜五百、楽就二百三十vs黄蓋百、吾の護衛二百vs孫策三十五(虎休憩中)という感じじゃな。
楽就の部隊は孫策と黄蓋との戦いで被害を受けておるから正確な数値ではないが、数字上は圧勝じゃ。しかし数字以上の働きをする武官が多過ぎるのじゃ。
この中で一番相手し易いのが周瑜というなんとも無理ゲー臭がするのぉ。
周瑜の統率と智謀はさすがじゃが、慣れぬ兵士、指揮官の不足、特に何もない平原ではその能力にも限度がある。それに弱くはないじゃろうが孫策や黄蓋のように規格外な戦闘能力を持っておるわけでもないからの。
それに比べ将自体は吾等の方が多く、統率も行き届いておる。
しかも周瑜には将を三人も当てておるから勝負は早く決まる……はずじゃ。
「……って、あれ?」
孫策の部隊と吾の護衛が衝突したんじゃが……なんか護衛達が圧勝したぞ?
疲労があったにしてもそう簡単に倒せるようなやつらではない……と思ったんじゃが?もしや護衛達はやつらに匹敵するぐらいの者達なのか?
まぁ吾の護衛じゃからありえんではない、か?後で確認せねばならんな。