第三百四十話
「むう……孫権がおらんのは寂しいのぉ」
「なんだかんだで付き合いは長いですし、ほとんどの時間をお嬢様に侍っていましたからねぇ~。というか私よりも一緒にいる時間が長い可能性がありますよ~」
七乃と孫権は役職が違うからのぉ。
孫権は色々臨時で職を代理しておるが、あくまで本職は侍女であるのに対して七乃は色々な職を正式に兼任しておるからのぉ。
代理と本職では忙しさがどれだけ違うかは想像できるじゃろ?……現実はそれの十倍を行くぞ。
「いい加減慣れてきましたけどなかなか人って育ちませんねぇ~。そろそろ誰かにいくつか引き継いでもいいと思うんですけど」
「有能な奴ほど野心があるか変態度が高いからのぉ」
変態度が高い方は問題がないわけではないが許容できる範囲であることが多いんで結構起用しておるんじゃが……変態は変態じゃからな。偉くなろうという意識もなければ責任感も薄い者が多いためあまり重職にはつけられんのじゃ。
で逆に野心のある者達は重職につけると隠れ(たつもりで)て好き勝手し始めるんじゃよなぁ。それで結局は巡り巡って仕事の量を増やすことになるわけじゃ。
吾の座を狙っておる者もおるんじゃが……譲ってやってもいいんじゃが絶対うまく回らんのじゃよなぁー。そして混乱して結局吾が責任を取ることになるんじゃろ?それならいらん仕事を増やさず現状維持する方が幾分かはマシじゃろ……多分……本当にそうか?混乱しておる間にまとまった休暇が取れると考えれば有り寄りでは……しかし、さすがにこれをやると帝が哀れ過ぎるか。帝は吾等と違って逃げるわけにもいかんしの。
「本当にままならんのぉ」
「ですねぇー。こんなにろくな人がいない国なんて滅んじゃった方が皆のためなんじゃないかと思い始めそうですよー」
「ちょっ?!」(帝)
「ふむ、それも一興かのぉ?」
「ええぇぇ?!」(帝)
「「もちろん冗談じゃぞ(ですよ?)」」
「いや、めちゃくちゃ真顔でそういうこと言わんでくれ!」(帝)
ちゃんと仕事はしておるんじゃからその気がないことぐらいは察してほしいんじゃが……まぁ逆説的にその仕事に追い込まれて自暴自棄になったという可能性は大いに有り得るので否定しきれんがの。
「重職のほとんどが司馬家の皆さんというのも不健全ですよねー」
「便利使いしておる自覚はあるの」
いやー司馬家は皆優秀でのぉ。ついつい仕事を多く割り振ってしもうておる。
「……む、こういうところでも孫権がおらんことで弊害があるとはの」
手元にある湯呑を見ながらぼやく。
「あー、孫権さんの入れるお茶美味しいですからねー。お嬢様を喜ばせるために頑張ってましたから」
「帰ってきたら褒めてやるかのぉ」
……だから無事に帰ってくるんじゃぞ。孫権。