第三百四十四話
「ハアァッ!!」
一帯に響き渡る気合の一声。
そして吹き飛ぶ輸送部隊が構築した荷台壁。
「突撃せよ!!」
簡潔明瞭な命令という叫びと共に穴を開けた本人である周昕を先頭にして荷台壁の内側へと侵入する。
それを迎え撃つ輸送部隊であるが――
「抑えられないわね。私が出る!部隊の準備は出来ているわね!」
孫権は孫策とは違うと言っていたにも関わらず自身が出ることを即決する。
輸送部隊は周昕軍に対してセオリー通り、距離がある内は矢を射かけ、近づいたなら荷台壁を盾にして長槍や投石などを行う……予定だった。
矢を射かけるのは効果があり、周昕軍の数をいくらか減らすことができたが周昕軍は怯むこともなく、その勢いのままに突撃し、荷台壁を周昕が一撃で破壊、混戦となった。
荷台壁を盾に交戦予定だったために輸送部隊の武装は近接戦闘の武装ではなく、それよりも間合いが広い武装していた。
そのため乱戦となると戦闘ができないわけではないが十全の力を発揮することができずに劣勢は必至、しかも周昕が一角の将であろうことははっきりと示された。
そして問題はこの世界において一角の将というのは一騎当千とまではいかずとも最低でも一騎当百ぐらいには匹敵する存在だ。雑兵が戦っては被害がどれだけ出るかわからない。
ならば将には将を当てることこそが最善……ではあるのだが、周昕を相手にするだけの技量を持つ者はここには孫権しかいない。
「ハッ、部隊の準備は整っております」
この部隊は袁術が孫権を心配して無理やり付けた袁術の正規軍百人である。
その練度は正規軍とあって徐州軍や上海輸送部隊の比にならず、武装も一目で違うものだとわかるほどのものである。
「では出陣!」
今回は味方を押しのけて行くことを考え、全員が大盾を装備しているのだが、その足取りは馬の駆け足よりも速い。
そしてもちろん孫権は先頭を走る。
(結局こうなるのね……まさか孫家の血がそうさせるなんてことはないわよね?)
そんなことを考えつつ派手に兵士達が飛ぶ光景が近づいてきた。
「ふぅー」
ゆっくり息を吐く。
戦いに心を奪われることは姉と同じ。
心を制御してこそ武人。
姉は武人にあらず、獣のそれ。
自分は獣になりきれず、半端となり死ぬことになる。
活きるには武人であらねばならない。