第三百四十五話
孫権達が輸送部隊を轢き殺すかのように押しのけて一直線に前線へと向かう。
それを見て取り、周昕は将が自身に向かってきていることに気づき、まるで呼応するかのように進軍する。
両者が近づくという形になり、接触までの時間が短縮され――互いの顔が見えるまでにそう時間は掛からなかった。
孫権は周昕を見ると大盾を投げ捨て、腰に下がる剣の柄を握る。
まだ孫権が武器を手にしていないことを好機とみて乗っている馬にムチを入れて急加速して槍を胸を貫かんと突き出す。
タイミング、速度、狙い、どれも必殺のそれだ。
しかし――
「その技量に敬意を表す……されど――呂布に届かず、紀霊殿に届かず、関羽殿に届かず――そして私にも届かない」
先程まで間違いなく鞘に収まっていた剣がいつの間にか抜かれ、槍の横を叩いて逸らすと同時に登るように素早く滑って跳ね、手首を切り落とし、続いて急降下して馬を跨ぐ足を斬る……ついでに馬も軽く斬りつけ――
「ヒヒィーーン!!」
馬が斬られたことに驚き前足を上げる。そして周昕は片手が切り落とされた上に片足が斬られている状態であるため踏ん張りが馬から叩きつけられるように落下する。
だが、さすがは武人。手を切り落とされ、足を半ばまで斬られ、受け身も取れずに落馬したにも素早く身体を起こす――が――
「ぎぃ」
起こしたところを無事だった片腕を肩から斬り落とす。
それを行う孫権の表情は――無――である。
そこに何も行われず、何も存在せずにただただ何もない空間を眺めているような、そんな表情である。
あまりに無が過ぎてどこか人間が壊れているかのようにも見える。
「くっ、殺せ」
既に勝負は決した。
両腕はもう使えず、片足も半ばまで切断されている。戦うことどころか死ぬことも確定である。
「殺さないわけがないでしょ。お嬢様の牙を剥く愚か者め」
戸惑いなどなく、無感情から嫌悪が表れたのと共に周昕の首は宙を舞った。
そして汚いものを触るように首を拾い上げ――
「周昕の首、この孫権仲謀が討ち取った!!」