第三百四十六話
「おお。信頼してはおったが、実際こうして功績を知らされると感慨深いものがあるのぉ」
孫権が周昕という叛徒をあぶり出し……勝手に出てきたとも言うかもしれんが……を無事討ち取り、挟撃されたものの合計六千の叛徒を討伐に成功したようじゃ。
もちろん六千丸々全てを討つことができたわけではないが、近隣の商会からの報告ではまとまりなく散り散りに逃亡したことで近隣の警備隊に狩られたそうじゃから問題なかろう。
むしろ問題は――
「せっかく敵将の首をあげたにも関わらず孫権が落ち込んでおることじゃのぉ」
本人の報告書では文字としては書かれておらんが、字が乱れておるあたり心が乱れておるんじゃろうなぁ。
それに周りの者達からも孫権が心配だという声が聞こえてきておる。
「孫権も自身が前線に出たことをそれほど気にせんでもいいじゃろうに」
報告を聞いた限りでは周昕という者は仕方ない判断じゃと吾は思うんじゃが……
「孫権さんの行動には思うところがないわけではありませんが」
と魯粛が呟く。
「そうですねー。もちろん最短で被害を抑える解決方法としては孫権さんが周昕さんを処理することですけど孫権さんは軍を率いる将ですからねぇー。今回は勝てたから問題になりませんけど孫権さんが負けていたら軍は瓦解して負けちゃっている可能性が高いですからねぇー」
「ですから輸送部隊の指揮を自ら執り、兵の損失を考慮せずに周昕にぶつけて疲弊を誘った上でなら及第点でしょうか」
「孫権さんはだいぶ改善されましたけど根が優しいですからねぇ。兵士さんの命を重く見すぎる傾向がありますから」
おぉう。七乃も魯粛もなかなか厳しいのぉ。
「しかし荷台壁を一太刀で破壊した剛の者を自由にさせては士気に関わるじゃろ。どちらかというと剛の者を想定もせずに荷台壁に安心して普通の装備しかせんかった輸送部隊の隊長とそのようなものを起用した上海の太守に問題があるじゃろ」
こういう武人への対策として鉄網や鉄網を放つ用の弩、不快指数を上げて少しでも動きを鈍らせる、もしくは火炙りにするように油の投擲用瓶などなどを開発して配備しておったにも関わらず使われた形跡どころか荷物にあったのに出しもしておらんかったらしい。
少なくともこれらを使う程度には有能、というかマニュアルに沿う能力があれば孫権が前線に出ることは防げた可能性があるし――
「何よりおぬしらの批評も多少マシになったじゃろう?というわけで巡り巡って上海の太守に無能なやつを任命した吾等の責任じゃ」
「そう言われると確かに」
「上海の彼ですか~。政が得意でしたし、事務処理も得意でしたからお任せしましたけど~人を見極める力はなかったようですね~。確かに私達の失態です」
ちょっと殺ってきましょうか?と七乃が視線で言ってきたので頷いて任せた。
ちなみに殺ってきましょうか、とは更迭して八大地獄の一つである書類地獄に突き落とされるだけじゃから死にはせん……死には、の。
「んー、しかし孫権が落ち込んだまま本格的な戦場に行くのは心配じゃのぉ。なんとか励ませんもんかの」
んー。何かないものか――
「伝令!伝令!」
ここのところ割とよく聞くようになった緊急の伝令であることを告げる叫びにため息を一つ漏れてもうた。
次から次へなんじゃ。今度は劉備達が直々に略奪でも始めたのかや?いや、その程度のことなら董卓や荊州で睨みを効かせておる甘寧が対処しておるじゃろう。
「もうお腹いっぱいなんじゃがのぉ」