第三百四十七話
「……は?もう一度言ってたも」
「ハッ!揚州の豫章と会稽の南部の豪族等が山越と手を組み、南荊州の長沙か桂陽に進軍中です!その数二万!」
ええぇ、超面倒な展開過ぎるじゃろ。
南荊州は現在実質的には孫策の支配下、独立状態にあるんじゃが、役職的には吾の下ということになるんじゃが……これ、支援する必要あるんじゃろうか?あるんじゃろうなぁ。
しかし、軍需物資は外に出していい分はもう最低限しか残っておらんぞ。
というかこの局面で南荊州に侵攻?本当に何を考えておるんじゃ?それに山越と手を組んでお互い不干渉というならわかるが、共に行動しておるのか?呉越同舟と言うが何が目的で共に行動しておるんじゃ?
仲良く略奪……なんてしておったら収支が合わんじゃろうし、侵攻してどこか占領しても取り分で言い争いになって瓦解するのは目に見えておるし、いったい何が狙いなんじゃろ。
しかも数が結構多いのぉ。
「孫策には――」
「伝えています!」
「じゃよな。それで何か言っておったか?」
「孫策様は――「自分達のことぐらい自分達でどうにかするわ!」――と仰っていましたが周瑜様は頭が痛そうに手を当てておられました」
まぁそうじゃろうな。
独立しておるか吾の下におるかはともかく、襲ってくる敵を前に黙っておられるほど江東の虎は飼い慣らされた猫にはなっておらんじゃろう。むしろ全力で襲いたくてウズウズしておるのが目に浮かぶ……そしてやはり周瑜が特大な溜息を吐いておるのも見えるぞ……吾は超能力者じゃったのか?!(違う)
「ふむ、ならば周瑜への見舞金でも送ってやるとするか。七乃、手配を頼むぞ」
「了解しました~。どの程度送っておきますか?」
「んー……倉三つ……いや、六つにしておくかの。交州との交易路開拓の褒美は渡したが交易路拡大の褒美はまだじゃったから丁度いいじゃろう。後、軍権を一部解除するのも忘れるでないぞ」
さすがに平時の太守が持つ軍権では万を超す軍を率いることは禁止されておるからの。ちなみに董卓は州牧じゃから太守よりは軍権の規制は緩かったりする。
いくら孫策達が精鋭とはいえ、烏合の衆とはいえ二万近くの叛徒となればよほどの無能でもなければ楽には倒せんじゃろうからの。
「お嬢様はなんだかんだ言って孫策さんに甘いですよね~」
「そうかの?」
使えるものは何でも使うのが吾の流儀じゃぞ。
まぁ孫策はともかく、周瑜が可哀想という思いは無きにしもあらずじゃが。
それに何より金で解決するなら全然問題ないからの!あ、いや、金を輸送する人手がまたいるんじゃったな。これが吾の勢力圏内なら商会を通じて現代の銀行のように実際の金を輸送する必要はないんじゃがのぉ。裏商会を使うわけにもいかんし。
「ああ、そういえば甘寧にこのことは……」
「伝えております!詳細はこちらに」
「うむ……さすが甘寧じゃな。浮足立った感じがないのぉ」
渡された書状には叛徒達が万が一攻めてくることを考慮して、江夏への進路上にある渡河ポイントに見張りを配置し、それに呼応して劉備が攻めてくる可能性も視野に入れて警戒を強めておるとあった。
吾等が口出しする必要は無さそうじゃな。強いて言えば孫策同様、念の為に資金を送っておく程度じゃの。